この記事でわかること
- ・法人が破産するとはどのようなことをいうのか知ることができる
- ・法人が破産しようとする際の手続きの流れを知ることができる
- ・法人破産を依頼する際の弁護士報酬の相場や弁護士の選び方がわかる
法人の収益が悪化して、債務超過になったり債務の返済ができなくなったりしたことで、破産の手続きを行うことがあります。
法人破産の手続きを経験したことがある人は少ないため、身近な人に相談することも難しいかと思います。
そこで、専門家である弁護士にいきなり破産手続きについて相談しなければならなくなります。
法人破産の手続きを依頼した場合、弁護士報酬はどれくらい必要なのでしょうか。
また、どのように弁護士を選ぶといいのでしょうか。
法人破産とは
会社の収益状況が悪化して債務超過になり資金繰りが苦しくなると、借入金の返済や債務の支払いができなくなってしまいます。
この場合、会社が裁判所での法的な手続きを行って、支払いができなくなった債務についてその支払いを免除してもらうことがあります。
この債務を免除してもらうための一連の手続きを破産手続きといいます。
株式会社・有限会社などの会社のほか、医療法人・社団法人などの法人が破産手続きを行う場合、法人破産といいます。
これに対して、個人が破産手続きを行うことは自己破産と呼ばれます。
裁判所で取り扱われる毎年の破産事件の件数は、裁判所ホームページの「司法統計」でわかります。
これによれば、平成30年には80,012件の破産事件が新たにその審理が開始されています。
これは、平成29年の76,015件、平成28年の71,840件と比較すると、年々増えていることがわかります。
法人破産の手続きの流れ
法人が破産をしようとする場合、どのような流れで手続きを進めるのでしょうか。
決められた手続きを行わなければ、債権者からの督促を止めることはできませんし、家族にも大きな不安を与えることとなりかねません。
正しい流れを把握して、破産手続きを行う準備を進めるようにしましょう。
法人破産手続きの流れ(1)弁護士に相談する
法人破産の手続きを、その法人の経営者自身が行うことも不可能ではありません。
しかし、実際には、ほぼすべての場合で法律の専門家である弁護士にその業務を依頼して行うこととなります。
弁護士をどのように選定したらいいのか、そしてその報酬はいくらなのかについては後ほど詳しく解説しましょう。
最初に弁護士に相談する際には、破産に関する概要やそれまでの経緯などを中心に相談します。
弁護士に相談する内容のポイントは以下のようになります。
①破産に至るまでの経緯
経営に行き詰った時期や理由、そして債務の返済が滞った経緯などを確認します。
②債務の状況
現時点で法人が抱える債務について、その内容を確認します。
金融機関や仕入先だけでなく、リース会社や国、地方公共団体などへの支払いが滞っている場合もあるため、すべてを洗い出します。
③法人の保有する財産の状況
会社が保有する財産には、現金、預金、土地や建物などの不動産、在庫、取引先に対する債権などがあります。
これらの財産は、最終的にはすべて債務者への支払いにあてられることとなりますが、その種類と金額を確認しなければなりません。
④従業員や賃借物件の状況
法人が従業員を雇用している場合、その従業員をすべて解雇しなければなりません。
また、賃借している事務所や店舗がある場合、その賃借物件はすべて明け渡す必要があります。
その全体像を把握し、雇用条件や契約内容を確認します。
⑤連帯保証の有無
法人が金融機関から借り入れをする際に、代表者が個人で連帯保証をしていることがあります。
法人破産をする場合に連帯保証している債務があると、債権者からの請求は個人に及びます。
状況しだいで代表者も自己破産する必要があるため、借入時の条件を確認する必要があります。
法人破産手続きの流れ(2)弁護士から受任通知を発送する
破産手続きについて弁護士に正式に依頼することとなった場合、弁護士から債権者に対して破産予定であることが通知されます。
この通知のことを受任通知といい、弁護士から書面で行われるものです。
受任通知を送付すると、債権者に対する支払いを行う必要はなくなります。
また、受任通知を受理した債権者は、これ以降の取り立てをすることはできなくなります。
さらに、債権者は債務者に直接連絡をすることはできなくなり、すべて弁護士宛に連絡しなければなりません。
法人破産手続きの流れ(3)従業員の解雇やテナントの明け渡しを行う
法人が破産手続きを行う際には、雇用している従業員を解雇しなければなりません。
この解雇のことを整理解雇と呼びます。
必要な手続きを行わずに解雇してしまうと不当解雇となってしまうため、必ず法律上の決まりに従って手続きを行います。
また、法人の締結している契約もすべて解除しなければなりません。
そこで、賃貸借契約を締結しているテナントの立ち退きを行う必要があります。
法人破産手続きの流れ(4)裁判所に破産の申立を行う
法人が破産するためには、裁判所で手続きを行わなければなりません。
まずは、裁判所に申立書や関係する必要書類を提出する必要があります。
破産申立書は弁護士が作成するため、弁護士と一緒にそのための打合せを行います。
書類作成のための打合せには時間がかかるため、早い段階から準備を進めるようにしましょう。
また、申立書以外の必要書類には以下のようなものがあります。
- ・預金通帳
- ・直近2事業年度分の決算書・付属明細書
- ・土地・建物の登記事項証明書、固定資産税評価証明書
- ・事務所・店舗の賃貸借契約書
- ・有価証券やゴルフ会員権の証券のコピー
- ・加入している生命保険の保険証書や解約返戻金計算書のコピー
- ・自動車の車検証や価格査定書のコピー
- ・総勘定元帳・売掛台帳・賃金台帳などの帳簿類
- ・雇用契約書・賃金規程・賃金台帳などの雇用関係書類
- ・金銭消費貸借契約書
- ・会社の商号登記簿謄本
- ・自己破産の申立を決定した取締役会議事録
- ・訴訟を抱えている場合には、訴訟関係資料のコピー
申立書と必要書類がそろったら、裁判所にこれらの書類を提出して破産の申立を行います。
破産の申立をすると、2週間ほどで裁判所が破産手続開始決定を行い、裁判所での手続きが開始されます。
また、破産手続開始決定が行われると同時に、裁判所が破産管財人を選任します。
これ以後の破産手続きは、すべてこの破産管財人が行うこととなります。
まずは法人の代表者と弁護士、そして破産管財人で打ち合わせを行います。
破産に至った事情の説明や今後の破産手続の進め方について決定する重要な場です。
法人破産手続きの流れ(5)債権者集会を行う
破産手続開始決定後、2~3か月後に裁判所で債権者集会が行われます。
破産した法人が破産に至った経緯や、現在の財産の状況などについて債権者や裁判所に説明します。
この債権者集会は、法人の破産手続きには不可欠なものです。
しかし、債権者集会を行っても、実際に債権者が出席することはほとんどありません。
実際には法人の代表者、破産申立を担当した弁護士、破産管財人の弁護士、そして裁判官が債権者集会に出席することとなるのです
法人破産手続きの流れ(6)破産管財人による財産の売却手続き
法人の財産については、破産管財人のもと売却・換価されていきます。
不動産や自動車などの財産はすべて現金に換えて、最終的に債権者に配当される資金となります。
思い入れのある財産であっても、破産管財人による売却を妨げるようなことはできません。
法人破産手続きの流れ(7)債権者への配当を行う
法人が保有する財産をすべて売却したところで、債権者への配当が行われます。
売却により確保した金銭を、債務の金額に応じて債権者に分配します。
配当が行われたら、正式に破産手続きは終了です。
なお、配当する金銭がない場合にも、手続きにより破産手続きが終了します。
法人破産を依頼したときの弁護士報酬の相場
それでは、実際に法人の破産手続きを弁護士に依頼した場合の弁護士報酬はいくらぐらいかかるのでしょうか。
ここでは多くの弁護士事務所で採用している報酬体系をもとに、その相場をご紹介します。
また、法人破産には弁護士報酬以外の費用も必要なため、それらの費用の額も一緒に考えなければなりません。
破産手続きを行う際には、まとまった資金が必要になることを覚えておきましょう。
弁護士報酬の種類(1)着手金
弁護士に法人破産の手続きを依頼した場合、発生する基本料金のようなものです。
法人の規模や債務の額、事案の複雑さなどに関係なく、一律で定められている場合もあります。
また、会社の規模や債権者の数など、その条件に応じた料金体系を最初から設定している場合もあります。
弁護士事務所によっては、基本手数料などの名称で呼ばれることもあります。
小規模な法人で、債権者などの当事者が複雑に絡んでいない場合、弁護士に対する報酬はこの着手金だけで済みます。
着手金の金額は、弁護士が自由に設定することができます。
そのため、着手金の金額について、単純にその相場がいくらくらいかということは難しい面があるのです。
多くの弁護士事務所では50万円~300万円といった金額を着手金として定めていますが、その額は非常に幅があります。
最終的には、弁護士事務所に直接問い合わせて、その金額を見積ってもらわなければなりません。
多くの法人破産を取り扱っている弁護士事務所では、ホームページでその金額を明示しています。
そのような情報を収集して金額を比較するのは、破産手続きを検討する段階で非常に重要なことです。
弁護士報酬の種類(2)追加着手金
法人破産にかかる弁護士報酬は、基本的に着手金を負担するだけです。
しかし、債権者が多数いる場合など事案が複雑なケースでは、基本料金だけですべての手続きが完了しない場合があります。
そのような場合に、必要となるのが追加着手金です。
弁護士事務所によっては追加手数料などと呼ばれることもあります。
弁護士事務所によって料金体系はまちまちであるため、ひとまとめにして説明することはできません。
ただ、追加着手金が必要になるのはどのようなケースなのかについては、おおよその基準があります。
営業所やテナントが複数ある場合
営業所やテナントが複数ある場合、その数が増えるほど追加の料金が発生する可能性があります。
また、法人の破産手続きを開始する時点で明け渡しが完了していない場合には、弁護士による明け渡しの手続きが発生するため、さらに費用がかかります。
解雇の済んでいない従業員がいる場合
法人破産の手続きを開始する時点で解雇していない従業員がいる場合、その従業員についての整理解雇が必要となります。
このような手続きを行うため、従業員がいる場合は追加の料金が発生する可能性があります。
従業員の人数が多いほど、追加の費用も増加する傾向があります。
債権者の数が多い場合
債権者となるのは、破産する法人が借入をしている金融機関、仕入を行って未払金額がある場合の仕入先などです。
また、税金や社会保険の滞納がある場合には国や地方自治体も債権者となります。
このような債権者が多い場合、受任通知の発送から始まる一連の手続きにおいて、多くの処理が必要です。
また、債権者が多いほど破産手続きに対する反対意見が出る可能性も高くなるため、より慎重に進める必要があります。
その結果、債権者が多いほど弁護士報酬が高くなる可能性があるのです。
会社の規模が大きな場合
会社の規模が大きい場合、それだけ会社が保有する財産の数や種類も多くなります。
そのため、破産申立を行う際の申立書の作成や必要書類の準備により多くの時間を要します。
また、それらの財産を売却する際の手間もかかるほか、すべてを売却するまでにより長時間が必要です。
したがって、会社の規模が大きくなるほど、弁護士報酬も多額となる傾向があるのです。
裁判所に納付する予納金等
法人が破産手続きを行う際には、弁護士費用とは別に裁判所に納めなければならない費用があります。
これらの費用を支払うことができなければ、法人は破産をすることができないため、必ず一度に納めなければなりません。
予納金
法人破産の手続きを行う際に、必ず選任されるのが破産管財人です。
この破産管財人は、破産しようとしている法人が保有する財産を現金に換えて、債権者に少しでも配当する役割を担います。
破産管財人に就任するのは、その裁判所の管轄内で活動を行う弁護士です。
この破産管財人に対する報酬については、破産を申立てた法人が負担することとされています。
破産を申立てた法人は、申立を行うと同時に、裁判所に対して予納金を納める必要があるのです。
予納金の額は破産しようとする法人が抱える負債の額や債権者数によって決められています。
中小企業が破産手続きを行う際には少額管財事件として取り扱われることが多く、その際の予納金は20万円となっています。
その他実費として裁判所に納める費用
裁判所に納める費用には、予納金のほか申立手数料や予納郵券、官報公告費があります。
申立手数料として、収入印紙を1,000円分納めます。
また、予納郵券とは債権者に対して連絡を行うために必要となる切手代のことです。
種類と枚数が裁判所によって厳密に定められており、トータル4,000円分程度が必要です。
官報公告費も裁判所により若干違いがありますが、およそ15,000円程度かかります。
そのほかに必要となる費用
法人の破産を行う際に、連帯保証人となっている代表者が同時に自己破産するケースがあります。
この場合は、自己破産を行うための予納金や手数料などを別に用意しなければなりません。
また、事務所やテナントの明け渡しの際には、法人の破産だからといって特別な配慮があるわけではありません。
賃借物件を貸主に返還する際と同じように、内部のものはすべて処分し、原状復帰を行う必要があります。
このような作業を行っていない場合には、破産する法人がその分の金額を負担しなければなりません。
仮に法人が負担できない場合には、申立人である法人の代表者が負担しなければならない場合もあるため、注意が必要です。
法人破産を依頼する弁護士の選び方
法人の破産を行う際に、弁護士であればどの人でも違いがないと考えるのは間違いです。
弁護士の業務は幅広く、それぞれに得意分野があるため、法人の破産に強い弁護士に依頼する方がスムーズに進めることができます。
また、破産手続きを依頼する立場としては、弁護士報酬が少しでも安い方がいいと考えるでしょう。
そこで、どのように弁護士を選ぶといいのか、いくつかのポイントをあげてみます。
法人破産の経験が豊富な弁護士を探す
法人の破産を考え始めた時、どのように弁護士を探すでしょうか。
一般的には、インターネットで弁護士事務所のホームページを検索することになると思います。
ホームページには、それぞれの弁護士が得意とする分野での実績が掲載されています。
たとえば「離婚問題に強い弁護士」となっているのであれば、その人は法人の破産については得意分野ではないといえます。
このような弁護士は、候補から外れることとなるのです。
法人の破産の取扱いが多いと思われる弁護士から選ぶようにしましょう。
地元の弁護士から選ぶとメリットがある
地元の弁護士であれば、裁判所や破産管財人と顔なじみとなっている可能性があります。
特に破産管財人は地元の弁護士から選任されるうえ、実際の破産手続きを執行する人であり、法人破産のキーパーソンとなります。
また、弁護士との打合せは弁護士事務所で行われることが多いため、出かける時間と費用が少なく済むという点も見逃せません。
円滑な手続きを進めるうえでは、地元の弁護士を探すことにはメリットがあるのです。
弁護士報酬が明確になっている事務所を選ぶ
破産手続きは、資金繰りに苦しむ法人が行う手続きであるにもかかわらず、予納金や弁護士報酬の負担は大きなものとなります。
そのため、少しでも費用の安い弁護士を探したいと考えるはずです。
まずは、ホームページなどで金額が明確にされている弁護士に見積りを出してもらうようにしましょう。
そのうえで、複数の弁護士事務所に見積もりを依頼し、納得のいく弁護士を選任します。
単純に会社の規模だけではない基準で費用が変わることもあるため、具体的な金額を算定してもらうようにしましょう。
まとめ
裁判所に対して申立が行われた破産の件数は、ここ数年右肩上がりで増えています。
破産すること自体は決して望ましいことではないのですが、いったんリセットするためには必要な手続きです。
資金繰りが苦しく、これ以上収益の改善が望めないのであれば、法人破産を行ったうえでもう一度やり直すのも選択肢の一つとなります。
ただし、破産以外の選択肢の方がいいケースもありますし、破産する際には弁護士に依頼することが不可欠となります。
様々な可能性を探るためにも、そして破産の手続きを実際に依頼するためにも、早めに弁護士に相談してみましょう。
法人の資金がなくなった状態では、破産手続きを進めることもできなくなってしまうため、早めの決断が重要です。
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