商品を購入した後、「思っていたものと違った」、「ついその場の勢いで間違って買ってしまった」などと後悔してしまうことは、誰もが一度は経験したことがあるかと思います。そのようなとき、商品を返品して契約を解除できる「クーリングオフ」という制度があります。
今回は、そのようなクーリングオフ制度について、どのような制度であり、どのようなときに利用できないことがあるのか見ていきます。
目次
そもそもクーリングオフとは
「クーリングオフ」とは、一度成立した契約について考え直す時間を消費者に与え、一定の期間内であれば無条件で契約を解除できる制度のことを言います。民法においては、一度成立した契約に拘束されるのが原則ですが、その例外規定としてクーリングオフが設けられています。例外として設けられた背景には「消費者保護」の目的があり、そのような背景からクーリングオフの適用となるケースは限定されています。
クーリングオフの適用を受けることができる取引には以下のようなものがあります。
- ・店舗外取引
- ・訪問販売
- ・キャッチセールス
- ・アポイントメントセールス
- ・電話勧誘販売
- ・連鎖販売契約(マルチ商法など)
- ・特定継続的役務提供
- ・業務提供誘引販売
- ・クレジット(ローン)契約
- ・宅地建物売買契約
- ・投資顧問契約
- ・不動産特定共同事業契約
- ・保険契約
- ・預託取引
- ・ゴルフ会員権契約
- ・冠婚葬祭互助会契約
これらに当てはまらないものは、業界団体の自主規制や個別の業者が自主的に設けていない限りクーリングオフ制度の対象外となっており、様々な例外が存在することもあるので注意が必要です。
また、それぞれにクーリングオフができる期間と、クーリングオフの対象となる金額(価値)の下限が定められているため、個々のケースを確認する必要があります。
なぜ事業者間の契約はクーリングオフができないのか
事業者間の契約の場合、消費者保護を目的とするクーリングオフは原則的に適用されません。例えば、特定商取引法においては、26条1項で「契約者が営業のために若しくは営業として締結する取引」は適用除外とすることを定めており、消費者保護の観点から設けられているクーリングオフを事業者間取引には適用しない旨が記載されているからです。
しかし、たとえ書面上で「事業者間取引」として記載されていたとしても、法律的な解釈で事業者間取引(営業のため若しくは営業として)とはみなされず、クーリングオフの適用を受けられる場合もあります。判例では、事業者間の取引にあたるかどうかについて「単に契約書の記載だけでなく、当該取引の実態から判断すべき」しています。
つまり、その取引が業務用のものではなく、個人用のものだということを十分に証明できれば消費者契約としてみなされ、特定商取引法が適用されることがあるのです。
失敗しないために企業が持つべき意識
事業主が簡単にクーリングオフ制度を利用できないということを考えると、取引・契約はより一層慎重に行なう必要性が出てきます。
ここでは、手遅れになる前にできる事業者間取引での予防策について説明します。
不明な点は必ず確認する
安全な取引をするにあたって「確認」を行なうことは非常に大切です。業者の確認、契約書の確認、取引するもの、金額の確認など、一つ一つ慎重に確認を取ることが求められます。
契約時に、契約書をしっかり確認せずに署名・捺印を行なってしまい、後々契約を解除できなくなってしまったというような失敗例は多くあります。また、契約の時に金額や現物を確認せずに契約を締結してしまい、後から高額な金額を請求されたなどという場合もあります。
このような事態を防ぐためにも、契約時には契約書の内容を隅々までチェックし、重要な契約では弁護士などにリーガルチェックを依頼することが必要です。
また、契約書以外にも、取引の相手に関する情報や、商品の適正価格を確認することも重要です。
できるだけ書面に残す
取引内容は、証拠資料としてできるだけ書面に残しておくことが大切です。どんなに信用できる取引相手だったとしても、口約束では何か起こった時に法的拘束力を求めることは難しくなるからです。また、書面に残すことで、双方が契約内容を十分に確認することもできます。
契約書を一から作成することは難しいですが、数多くある契約書のテンプレートや個別の事例に応じた契約書を弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に依頼して作成してもらうこともできます。
複数人で内容を確認する
口のうまいセールスを受けたり、追い詰められている状態での契約は、自分のみでは冷静な判断が下せないことがあります。そのため、大事な契約に関しては複数人で内容を確認することが大切です。
一見正しいように見えても、実は自社が不利になる内容が含まれており、複数人で確認すればそのような部分に気づける可能性が高まります。
契約は、その後の取引の原点となるものなので、できる限り十分なチェックをすることが重要となります。自社にとって重要な契約や、すべての契約の基となる契約書のテンプレートなどに関しては、必要に応じてリーガルチェックを受けることも重要です。
その他クーリングオフが対象外のもの
事業間契約以外でもクーリングオフが対象外のものはいくつか存在します。
- ①店舗・営業所での契約(キャッチセールスやエステ、語学教室、マルチ商法などの場合を除く)
- ②通信販売
- ③指定消耗品を使用したり、全部または一部を消費した場合
- ④自動車・運搬車
- ⑤訪問販売・電話勧誘販売で3000円未満の現金取引の場合
- ⑥クーリングオフ期間を過ぎた場合
- ⑦取引する意思をもって自分から業者を自宅に呼び寄せた場合
他にも様々な規定が設けられており、上に挙げたものは一部です。これらにも例外が設けられていたりと非常に複雑なものになっています。また、クーリングオフできるものだったとしても期間が過ぎてしまうと権利を行使できなくなってしまいます。
まとめ
クーリングオフは消費者を守る大事な制度ですが、上記のように適用の対象外となるケースも多くあります。とりわけ事業者間の契約はクーリングオフの対象外となることがほとんどのため、契約の段階で細心の注意を払う必要があります。
契約書のチェックや契約書のテンプレートの作成などは、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家が取り扱っています。重要な契約やはじめての契約に際しては専門家に相談することもご検討ください。