目次
この記事でわかること
- ・後遺障害等級とは何かについて分かる。
- ・後遺障害等級の認定を受けるための必要な手続や必要書類が何か分かる。
- ・後遺障害の「等級」がどのようなものかが分かる。
- ・後遺障害等級を受けた場合と受けない場合で被害者が受け取れる慰謝料額の違いが分かる。
- ・後遺障害認定後に気を付けるポイントについて分かる。
はじめに
「後遺障害等級」という言葉を聞いたことがありますか。
後遺障害等級とは、交通事故などで負傷した場合に後遺症が残ってしまった場合に重要になるものです。
交通事故の被害に遭った経験がない方には、まったく馴染みのない言葉でしょう。
他方、交通事故の被害に遭って、現在後遺症を抱えている方にはとても重要な概念になってきます。
被害者の方は加害者に対して慰謝料等を請求することになりますが、その場合には損害額について正確に計算する必要があります。
けがの治療をしても完治せずに後遺症が残ってしまった場合には、その後遺症に対する損害賠償を請求します。
そのため、後遺症がどの程度重いものなのかを判断しなければなりません。
そのための判断が「後遺障害等級認定」です。
この記事では、後遺障害等級認定について、認定の手続や手続に必要な書類、等級についても具体的に説明していきます。
また、等級認定を受けた場合と受けなかった場合の慰謝料額の違いについても具体的なケースを挙げて紹介します。
交通事故に遭った際に考えるべき「後遺障害等級」とは?
まず、後遺症とは怪我や病気などの治療の後に残った機能障害や、神経症状のことをいいます。
これに対して、後遺障害とは交通事故と因果関係のあるものと証明され、さらに労働能力の低下や喪失があり、その程度が自賠責保険の障害等級に該当するものとして認定されたものをいいます。
したがって交通事故で後遺症が残ったとしても、上記の条件に該当しなければ後遺障害とは認められません。
次に、後遺障害の等級とは何でしょうか。
交通事故による後遺障害は、等級や種類・・系列が詳細に決められています。
具体的には、後遺症の部位や程度によって、1~14級までの等級と140種類、35系列の後遺障害に細かく分けられています。
これらは、労災保険の障害認定の基準がそのまま適用されています。交通事故による後遺障害の症状の程度や被った損害等は被害者によって違います。したがって等級等を定めるにあったって一人ひとり個別に算出していくことは困難です。そこで、認定審査の書類内容をあらかじめ設定されている基準に照らし合わせてどの等級に当たるのかを審査するという方法で後遺障害等級の認定が決定されます。
等級は後遺障害のある部位がどこなのかというところから検討をはじめ、次にその部位についてどのような後遺障害があるのかを確認して、労働能力の低下・・喪失の程度はどれくらいなのかを検討して最終的に等級を認定していきます。
後遺障害等級は自賠法施行令に規定されており、1級から14級まで区分されていますが、後遺障害等級1級が最も重く、14級が最も軽い後遺障害です。
後遺障害等級が高いほど、慰謝料などの損害賠償金額も高額になります。
「後遺障害」の認定を得るためには?
ここでは、後遺障害等級の認定を受けるために必要な手続について解説していきます。
まず、交通事故の被害者が自賠責保険会社に対して必要書類を提出して、保険金の請求を申請します。
申請には、医師に作成してもらった後遺障害診断書や請求書等の書類が必要になります。
そして、自賠責保険会社が被害者から送られてきた書類の内容を精査します。
その後、自賠責保険会社から損害保険料率算出機構という組織に被害者の提出した書類は送付されます。
損害保険料率算出機構は、損保料率機関と省略して呼ばれることもあります。
損害保険料率算出機構は、被害者から提出された各種必要書類の審査を実施しその結果を自賠責保険会社に通知します。
そして、自賠責保険会社は損害保険料率算出機構の判断に基づいて、被害者の後遺障害等級の認定を行います。
認定のために提出が必要となる書類には、以下のようなものがあります。
- (1)自賠責保険支払請求書兼支払指図書
- (2)交通事故証明書・事故発生状況報告書
- (3)診療報酬明細書・診断書
- (4)後遺障害診断書
- (5)レントゲン・MRI等の画像
また、他覚症状はないにもかかわらず痛みや不調が続いているような症状については、その内容について書面で証明しなければなりません。
具体的には、被害者が治療の当初から一貫して主張してきた症状が今もなお継続している状況を、説得的に説明する必要があります。
書類の内容のみによって審査・・判断が行われる手続のことを書面主義といいます。
書面に記載されている後遺障害の記述が等級の基準や条件をどれだけ満たしていると認められるかがポイントになりますので、説得的な書面の作成が重要です。
後遺障害には症状や程度、損害により「等級」が存在する
後遺障害の等級とは、事故によって残ってしまった後遺障害の症状やその程度、深刻さについて、14段階に分けたものです。
後遺障害は症状や程度、損害によって等級が定められています。
1級が最も重く、14級が最も軽い等級になります。
たとえば後遺障害1級は「両目の失明」や「噛むことができず液体しか食べることができず」「うまく話せない」「手足が機能しない」等のかなり症状が重く、これまでのような社会生活を送ることが困難な状態だと言えます。
後遺障害14級は、後遺障害等級のうち最も軽い症状になります。
14級に認定される典型的な症状がむちうちです。
具体例として14級の症状の一覧を具体的に紹介します。
14級
1号 1眼の瞼の一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
2号 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
3号 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
4号 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
5号 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
6号 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
7号 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
8号 1足の第3の足指以外の1又は2の足指の用を廃したもの
9号 局部に神経症状を残すもの
レントゲンやCTなどの画像診断で異常が確認できず、症状の残存について医学的に証明することが難しいが、しびれが残ったりめまいがしたりするという症状が残るときはあります。
14級の9号には「局部に神経症状を残すもの」と記載されているように、客観的に証明できなくても、通院や治療状況等によって神経症状を医学的に説明できれば14級に認定される可能性があります。
むちうちの場合、14級と異なる他覚所見があると医学的に証明できれば、より重い12級と認定される場合もあります。
後遺障害等級14級となしではこれだけ慰謝料が違う
次に後遺障害等級が14級と認定された場合と、そうでない場合でどれだけ慰謝料に違いが出てくるのかを具体例を挙げてご紹介します。
ある被害者の方は交通事故で肋骨を骨折し入院しましたが、一向に症状は改善しませんでした。
入院が予定より長引いたことで、保険会社の担当者から治療費の打切りの打診や退院日の問合せ連絡が来て、精神的に大きな負担となりました。
そこでこの方は、保険会社との話し合いを全て任せたいという思いから弁護士に依頼しました。
症状も改善しないことから、後遺障害等級認定の手続も全て弁護士に依頼しました。
その結果、後遺障害等級として14級が認定され、当初保険会社から提示された示談金から100万円ほど増額することができました。
もし、この方が弁護士に依頼せずに自力で手続を行っていたら、後遺障害等級を得ることはおろか、保険会社の言われる通りの示談金で示談していた可能性すらあります。
この方の具体的な解決は以下のようになりました。
- ・症状:右肋骨第4、5骨折
- ・後遺障害等級:14級
- ・入院期間:1か月
- ・当初提示されていた示談金:180万円
- ・最終的な示談金:280万円
- ・示談成立に要した期間:6か月
等級認定を受けた後の流れ
交通事故による後遺障害に対する損害賠償の金額は、後遺障害等級をもとに決定されます。
上記でも説明しましたが、被害者は医師が作成した後遺障害診断書や各種画像等の必要書類を保険会社に提出して、保険金の請求を行います。
保険会社から損害保険料率算出機構に対して被害者が提出した書類が送付され、等級認定の判断が行われます。
その判断をもとに保険会社が被害者に支払うべき保険金額を決定し、被害者に通知します。
このように、保険会社から提示される損害賠償金の金額は、後遺障害等級認定に基づいて決定されるものですので、後遺障害等級に納得できない場合には、不服申立手続きとして「異議申立」を行います。
異議申立が合理的だと認められるためにも、以下のポイントを考えることが重要でしょう。
- ・後遺障害等級として認定された障害はどのようなものか
- ・後遺障害として認められた理由は何か
- ・上記に基づいてなされた後遺障害等級は正しいか
- ・認められるべきなのに認定されていない後遺障害がないか
- ・後遺障害として認定されなかった理由は何か(認定そのものがされなかった場合)
これらの点を分析したうえで、上位等級の主張ができるか否かを検討することになります。
異議申立の際には、後遺障害等級認定のために必要な資料を収集し、提出することになります。
したがって、新たな検査が必要であれば実施し、医師の診断書等と添付して申し立てることになります。
後遺障害等級認定について気をつけるポイント
後遺症が残った場合に、その後遺症部分の損害は認定された後遺障害等級に応じて、慰謝料や逸失利益などが計算されることになります。
交通事故の被害者の多くの方は、後遺障害等級の認定が出された場合、その認定が絶対的なものと考えがちです。
なぜなら医師が診断し、それに基づいてしかるべき組織のプロの人達が認定しているからです。
しかし、認定された後遺障害等級が覆ることは往々にしてあります。
後遺障害等級認定が異なってくると、被害者が受け取ることのできる慰謝料の金額が大きく変わってきます。
先述したとおり、自賠責の後遺障害等級の判断が書面主義で行われるため、伝わり方で結論が変わるのは仕方がないことです。
それでは、後遺障害等級が間違っているかどうかは、どのように判断したらよいのでしょうか。
後遺障害等級の判断基準は、障害によって異なっています。
さらにそれぞれの判断には、医学的な知識と後遺障害等級認定の法的な知識が必要になってきます。
したがって、交通事故の被害者の方が自分で障害等級認定の判断が誤っているかどうかを分析するのは難しいと言えます。
そこで、この場合には交通事故事件の経験が豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に依頼した場合に、その弁護士が後遺障害等級認定を間違っていると判断したときには次に異議申立という手続きに進みます。
ここで、異議申立が認められ、慰謝料等の損害賠償金がかなり増額した事案をご紹介しましょう。
交通事故で後遺障害が残り、後遺障害等級を申請したところ、14級10号と認定されました。
示談交渉が開始され、保険会社からは248万円の示談案が提示されました。
被害者の方はこの金額の適切性を判断できませんでしたので、弁護士に相談しました。
弁護士からは示談金の前提として後遺障害等級が12級に上がる可能性があると言われたため、異議申立で依頼しました。
そして、弁護士が介入し異議申立をしたところ、12級13号に等級が上がりました。
この等級を前提に弁護士が示談交渉したところ、示談金は大幅に増額し、4500万円で示談が成立しました。
つまり、弁護士に依頼したことで、当初保険会社から提示された248万円の約18倍にもあたる4500万円まで解決金が上昇したということです。
弁護士に依頼するメリット
ここまで説明してきたように、適切な慰謝料を受け取るためには、正しい後遺障害等級を認定してもらうことが重要です。
そして間違った認定がされた際には、不服申立手続を利用して、正しい後遺障害等級を認定し直してもらえるように働きかける必要があります。
そして、正しい後遺障害等級認定がされてから示談交渉に移行します。
ここでも注意点があります。
保険会社が被害者に提示してくる示談金額は、適正金額よりも低額になっていることが通常ですので、安易に担当者から提示された示談案に同意してはいけません。
保険会社も利益を追求する企業ですので、被害者に支払う保険金はできるだけ低く抑えたいという動機があります。
したがって、保険会社は、被害者の方に対して支払う保険金を減らせば減らすほど自社の利益が多くなるという関係にあります。
つまり、保険会社と被害者の方の利益が対立する関係にあります。
しかし、他方で弁護士と被害者の方の利害は一致しています。
弁護士の報酬は、依頼者が回復できる経済的利益の内容に応じて決定するため、被害者が獲得できる損害賠償の金額が最大化するように全力を尽くしてくれると言えます。
さらに、弁護士が介入することで、慰謝料の算定基準も、最も相場の高い弁護士基準が適用されますので、そもそもベースとなる慰謝料の基準が高くなる可能性が高いです。
保険会社としても、弁護士が代理人についた場合には示談金を増額して早期に示談を成立して終わらせようとします。
なぜなら、保険会社としては被害者個人と示談交渉している段階では、ただ増額を拒否していればいいですが、弁護士が介入してきた場合に拒絶し続けていると弁護士基準での賠償請求がされるリスクがあるからです。
交通事故に遭って、弁護士に依頼仕様とする場合には「弁護士費用特約」を利用することで、弁護士費用の被害者の負担を実質的に0円にすることができます。
弁護士費用特約の適用は被害者のみに限りません。
弁護士費用特約の適用範囲は広く、保険契約者と同居している家族や別居している未婚の子どもや同乗者等契約している保険会社によって違いがありますので、ご自身の約款をみて確認してみてください。
弁護士に依頼する前に、弁護士特約の適用がないか調べておくことをおすすめします。
保険会社は最大300万円まで弁護士費用を被害者にかわって負担してくれます。
保険会社としてはできるだけ弁護士特約を利用してほしくないため、過失割合が0の場合しか利用できないとか、もっともめているようなケースでも利用できないと言ってくる可能性があります。
しかし、弁護士特約は基本的に被害者であれば過失割合や示談状況によって使えないということはないため、約款をきちんと確認しておきましょう。
納得のいく示談にするためにも、交通事故に詳しい弁護士に依頼するようにしましょう。
まとめ
以上いかがだったでしょうか。
今回は、後遺障害等級について、その意義と認定に必要な手続をご説明してきました。
後遺障害等級の認定を受けるためには専門的な知識とともに必要書類をそろえる必要もありますし、いくつか複雑な手続があることはお分かりいただけたでしょう。
特に後遺障害認定が誤っている場合に、不服申立をすべきかどうかの判断は素人である被害者自身では難しいことが多いです。
さらに被害者の方は、後遺症を抱えながら以上説明してきたような手続を自力で行うことには困難が伴うことでしょう。
そこで、スムーズに適切な額の慰謝料を受け取れるようにするためにも弁護士に代理人となってもらい、手続きを一任することが、最も被害者の負担が軽い方法だと言えます。
後遺障害を負ってお困りの方は、まずは弁護士に相談してみるべきでしょう。
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