目次
この記事でわかること
- ・免責の意味について理解できる
- ・法人破産における免責の内容がわかる
- ・法人破産と個人破産における債権者の対応の違いがわかる
- ・法人破産のメリット・デメリットがわかる
- ・法人破産した時の税金支払いの有無がわかる
会社の資金繰りが悪化して、手形の不渡りを出してしまいそうな時、どうしたらいいのか悩むケースは多いと思います。
その場合、まず会社の売上状況や支払状況、キャッシュフローなどを精査しましょう。
その上で、今後会社を再生することができるのか、清算するのか、検討する必要があります。
また、法人破産などの法的な手続きに進まざるを得ないとしても、どのような処理をすべきか、また手続きを行う上で問題はないのかは、会社の状況によって様々です。
ですから法人破産とは、どのような手続きで、どのような効果をもたらすのか、あらかじめ理解しておくことが大切ではないでしょうか。
本記事では、法人破産の免責について、その言葉の意味から個人破産との違いを含めて説明していきたいと思います。
「免責」の意味
免責とは、「普通なら負うべき責任を問わずに許すこと」という意味です。
ですが、債務における「免責」という用語には、大きく2つの意味が考えられます。
1つ目は、言葉通りに「債務の支払い責任を負わない」「債務の支払いをせずとも許される」という意味です。
2つ目は、法的な制度としての「免責」です。
破産法には、裁判所の免責許可決定により、個人債務の支払い義務を免除させるという免責制度が定められています。
これを法的な制度として、「免責」と呼んでいます。
法人破産について、「会社が破産をしても、免責はされない」と記述されていることがありますが、ここでいう「免責」は、法的な制度としての免責です。
というのも、法人破産においては、そもそも免責制度がないのです。
しかし、法人破産において、債務の支払い義務は消えないのかというと、そうではありません。
法人破産であっても、債務の支払い義務はなくなります。
この「一般的な意味の免責」と「法的制度としての免責」について、もう少し詳しく説明します。
一般的な意味の免責
説明した通り、「免責」という用語は「債務の支払い責任を負わない」「債務の支払いをせずとも許される」という意味で使われることがあります。
法人破産の場合、破産手続きが終了するとその法人は消滅します。
債務者である法人が消滅していますので、債務そのものも消滅せざるを得ません。
「免責」という用語を一般的な意味で使う場合には、法人破産によって債務は免責されるという意味になります。
法制度としての免責
破産法には、免責制度が設けられています。
裁判所の免責許可決定によって、個人の債務支払い義務が免除される制度です。
免責の意味を法制度としての免責という意味で使う場合は、「法人破産では、免責されない」と記述される場合もあります。
法人破産には法的な免責制度はありませんが、債務の支払いを免れることはできますので、これらを誤解しないように注意しましょう。
法人破産には免責制度自体がない
前記の通り、法人破産には免責制度自体がありません。
破産法の免責制度が適用されるのは、個人(自然人)の場合のみです。
法人の場合、破産するとその法人自体が消滅します。
債務者である法人が、消滅するわけですから、その債務自体も当然消滅します。
ですから、法制度として免責させる必要がありません。
一方、個人の場合を考えてみましょう。
個人破産の場合、破産したからといって、その個人が消滅してしまうことはありません。
債務者である個人が消滅していないので、当然債務が消滅するということにはなりません。
そこで、個人破産の場合に限って、免責制度によって免責させる必要があるわけです。
法人破産と自己破産の債権者の対応の違い
法人破産と個人の自己破産では、債権者の対応に違いがあります。
個人の自己破産の場合、債権者となるのは、クレジットカード会社、銀行、また消費者金融などの金融機関がほとんどです。
これらの金融機関は、破産手続きに対する対応にも慣れているため、大きな問題はあまり起こりません。
ですから、債権者の大半が金融機関である個人の自己破産の場合には、弁護士より受任通知を送付して支払いを停止し、比較的スムーズに破産申立ての準備を進めていくことができます。
一方、法人破産の場合、債権者は金融機関だけではありません。
仕入先の買掛金の債権者や、一部顧客の債権者も含まれる場合もあります。
法人破産の場合には、弁護士から受任通知を送付すると、仕入先などの取引先に伝わり、債権者が会社の事務所や店舗などへ押しかけてくる等の取付け騒ぎが起きてしまう場合があります。
したがって、法人破産の場合には、秘密裏に準備を進めていくということも少なくありません。
法人破産のメリット・デメリット
会社などの法人が、債務超過や支配不能状態に陥った場合の手続きの一つとして法人破産がありますが、メリットもデメリットもあります。
内容をよく理解して、手続きを利用するようにしましょう。
法人破産のメリット
まず、メリットから考えてみましょう。
最大のメリットは実質的な債務の免責
個人破産と違って免責制度はありませんが、法人破産によって借入金などの債務の支払義務が実質的に免責されます。
会社自体が消滅しますので、税金などの公的な債務であっても消滅するのです。
取り立ての停止
法人破産手続開始決定となると、債権者は取り立てを行うことができなくなりますので、債権者からの電話に怯えるようなことはなくなります。
資金繰りからの解放
会社経営の状態が悪化してくると、毎日のように経営者の頭を悩ませるのが資金繰りの問題です。
法人破産することで、この資金繰りの問題から解放されます。
代表者個人の免責
法人の債務支払いが困難となっている場合、通常債権者は、代表者個人に連帯保証を求めるようになります。
そのため、法人の代表者は法人の債務に加え、代表者個人の債務にも対応する必要があります。
法人破産する場合、代表者個人についても同じ手続きで破産申立てをすることが多いため、代表者個人の債務も免責されることになります。
ですから、代表者個人としての再スタートも期待できます。
法人破産のデメリット
法人破産を選択しなくても、経営不振で事実上の倒産状態にある会社の場合、以下のようなデメリットは早晩発生することになりますが、あらかじめ破産によるデメリットも理解しておきましょう。
利害関係人への影響
法人破産は、会社が消滅することになるため、会社の利害関係人に影響を与えるというデメリットがあります。
会社が雇用していた従業員は解雇されますし、取引先への支払いも事実上できないため、場合によっては取引先の連鎖倒産を招きます。
また、仕掛中の受注案件が残っている場合は、取引先に損害を発生させる可能性もあります。
連帯保証している代表者の自己破産
代表者個人が会社の債務の連帯保証人となっている場合、法人破産すると、会社の債務が代表者個人に請求されます。
そのような場合、代表者個人も自己破産の手続きを行う必要があります。
全ての資産が消滅
法人破産によって、会社の資産はすべて換価されます。
また、会社が営んでいた事業も原則消滅しますので、目に見えないブランドやノウハウ、信用といったものもすべて消滅することとなります。
法人破産の手続き方法
法人破産の手続き方法について、弁護士への依頼から、破産手続終結までを説明します。
1.弁護士への依頼
会社などの法人の経営が上手くいかずに、法人破産を検討するような事態になった場合、まずは弁護士へ相談することをお勧めします。
会社の状況や心配事などを伝えて、その後の方針を決めます。
2.債権者への破産予定通知
弁護士と破産の方針を決めた後、債権者へ破産予定であることを通知します。
この破産予定の通知を「受任通知」といいます。
受任通知の送付後は、債権者からの連絡先をすべて弁護士宛とすることができますので、代表者や会社には直接連絡がこないようにすることができます。
3.従業員の解雇と賃貸物件の明け渡し
雇用している従業員がいる場合、従業員をすべて解雇し、事務所などを賃貸している場合は、その物件を明け渡します。
4.必要書類の準備
法人破産手続のための申立書は、複雑でボリュームがあります。
通常、書類は弁護士が作成しますが、会社状況のヒアリングなど、経営者自身の協力が必要です。
準備に時間を要するものもありますので、計画立てて準備しましょう。
また、代表者個人も破産申立てが必要な場合は、その準備も同時に行います。
5.裁判所への破産申立て
裁判所への破産の申立ては、弁護士が行います。
裁判所は、破産申立て後、約2週間で破産手続開始決定と破産管財人の選任を行います。
6.破産管財人の財産換価
選任された破算管財人は、法人が所有する資産(不動産・商品在庫・設備・備品等)を売却し、現金化していきます。
換価しにくい資産がある場合、資産の量が多い場合などは、換金に時間がかかることもあります。
7.債権者集会
会社が破産に至った経緯や、資産状況などについて、債権者や裁判所に説明するために、債権者集会が行われます。
この債権者集会の出席者は、会社代表者、申立て弁護士、裁判官、破産管財人、債権者となりますが、債権者が出席することは現実には多くはありません。
8.債権者への配当
破算管財人による会社資産の換価がすべて終了した後、債権者への配当が行われます。
この配当をもって、破産手続は終了となります。
また、債権者への配当がないような場合でも、異時廃止となり、破産手続きは終了となります。
9.手続きの終了
配当が終わると、破産手続きは終了です。
法人が消滅し、会社の登記も閉鎖されます。
税金の支払い義務の勘違い
「法人破産しても、税金や社会保険料の支払い義務は免除されない」と勘違いされている場合があります。
ですが、法人破産した場合、税金も社会保険料の支払義務も消滅します。
なぜ、このような誤解が生まれるかというと、法人破産と個人破産を混同してしまっているからです。
個人破産の場合、債務は免責されますが、税金や社会保険料の支払義務は免責されません。
しかし、法人破産の場合は、債務者である法人自体が消滅しますので、債務と合わせて、税金や社会保険料の支払義務も消滅します。
まとめ
個人破産は、裁判所の免責許可決定によって、個人の債務支払い義務が免除されます。
この法的な免責制度は、法人破産には適用されませんが、債務の支払いを免れることはできますので、誤解しないように注意しましょう。
法人破産は、個人と違って、破産手続きにより法人自体が消滅します。
ですから、法的な免責制度はありませんが、当然に債務の支払義務も消滅します。
また、個人破産では、税金や社会保険料は免責されませんが、法人破産では、税金や社会保険料の支払義務も消滅しますので、混同しないように注意しましょう。