目次
この記事でわかること
- ・成年後見制度の種類と類型別がわかる
- ・成年後見制度のメリット・デメリットがわかる
- ・成年後見制度は介護と密接に関係しているのがわかる
成年後見制度は、認知症や知能・精神障害などの病気により、法律行為をするとき判断力が乏しい結果、社会全体の法律・経済行為に支障をきたすと鑑みて、保護者である後見人を設定して、被後見人の法律行為を代理する制度です。
成年後見人制度をよく知ることで、これから訪れる高齢化社会について、予め用意をしておくことは社会の一員として、必要だと考えられます。
これから、成年後見制度の仕組みについて、詳しく解説します。
成年後見制度とは?
成年後見制度は、被後見人のために、法律行為を代理する後見人を設定する制度です。
精神障害など病状のために判断能力が欠けている場合、法律行為を有効にさせるためにもある制度です。
家庭裁判所の手続きにおいて、「成年後見人」として後見が開始決定された審判を受けると、障害を持った者は「成年被後見人」となり、保護者(後見人)は被後見人が起こした法律行為を取り消す、または追認できるようになります。
精神病、認知症などは判断力が乏しく、責任能力が脆弱になり、実行力に法的信用度を欠くと捉えられがちですから、成年後見制度による保護的有効力が必要になってくるのです。
成年後見制度ができた背景
成年後見制度は、将来来るべき超高齢化社会の二―ズに応え、40歳から介護保険料を徴収し始めた2000年に、関係制度整備として制度化されました。
特に老齢化社会は、医療と介護において、認知症など判断力が乏しい病状になることが多く、いままでの行政中心の社会福祉から、民間事業者が参入して介護サービス事業を展開できるよう移行してきました。
成年後見人制度は、介護サービスなど、本人の意思決定ができない人のために契約などの法律行為の代理や財産管理を行うことで、円滑な超高齢化社会を迎えるために新設された背景があります。
成年後見制度は、介護時代に適応した新しい法整備ですが、結果として、介護サービスビジネス社会を睨んだ法律行為の分類および法整備になりました。
成年後見制度の2つの種類
成年後見制度には2つの種類があります。
1つ目は法定後見制度であり、2つ目は任意後見制度です。
その違いは、現在とやがて将来やってくる時間軸としてある差異にあり、区別されています。
現在進行形を重視する法定後見制度
法定後見制度とは、現在代理制度です。
認知症・知的障害・精神障害などの病気があれば、判断能力が乏しいために、不動産や預貯金などの財産管理ができません。
その結果、民間事業契約に伴う金銭の授受に関する法律行為としては信用性が不十分と認められます。
法定後見制度は、本人の病状に応じ、「後見」「保佐」「補助」と3類型に分け、本人の病気症状および事情に応じて、3類型のどれかを選択できる代理制度です。
現在進行形を重視する法定後見人制度は、現在すでに病気症状ありきが前提条件になります。
個人として十分な法律行為を行えないので、代理人を設定しなければ、法律行為が完成されない状況です。
法定後見人制度の後見人は、本人が行う法律行為における代理人ですから、選び決定する機関は家庭裁判所になります。
家庭裁判所は公的機関の判断・決定であり、社会的に本人の法律行為を完成させようとするものです。
後見人として申立てできる者は、本人、配偶者、4親等内の親族、検察官、法律の専門家(国家資格取得者)などです。
法定後見人は、本人の法律行為を取り消し、または追認できる代理権限を持ち、さらに保護者的立場を有します。
将来のためにある任意後見制度
任意後見制度とは、将来における予定代理制度です。
本人の意思判断力は健在で、病理的症状がない場合に活用できる制度です。
老齢になるにつれ、将来を案じるためにある備えとして、本人自身があらかじめ代理人を選任できることが、法定後見制度とは違います。
任意後見人は本人の選択決定が強く働きますから、将来のために選んだ相手とあらかじめ契約を結んでおきます。
本人はまだ元気で判断力がありますから、法律行為は自分の責任でできます。
もし認知症など判断力が不十分な状態になったときは、任意後見契約を結んでいた任意後見人が家庭裁判所に申立てを行います。
家裁から判断・決定を下されたら、法定後見人と同等なる立場を有します。
任意後見制度は、将来、本人が意思判断能力を失ったとき、本人に代わって法律行為ができると予定された代理行為制度です。
代理権限を行使する時期は、本人の病気などによる状態・状況の変化によって、一定の手続きにおいて認められてからです。
本人の生活・療養介護・財産の管理を行う範囲において、家庭裁判所に選任された弁護士などの「任意後見監督人」の監督の下、任意後見人は代理権限を実行できる制度です。
任意後見人契約は、将来の備えとなる本人のための契約ですから、公証役場に行って、公証人と相談しながら法的効力が強い公正証書を作成すれば、家庭裁判所の手続きは迅速に行われやすくなります。
成年後見制度の3つの類型
家庭裁判所に申し立て、審判を受け認められると、後見人となります。
法定後見制度においては、判断能力の程度に応じて、3つの類型があります。
1つ目は後見人、2つ目は保佐人、3つ目は補助人と呼ばれます。
すべて、家庭裁判所の審判決定をもらった後見人です。
以下、3つの類型を下記に詳説します。
「後見」という立場
後見という立場は、財産権の管理権と、被後見人が起こした法律行為の取消権または追認する権限を有します。
あとで取り消すことができる権限の強さは、法定後見人だからです。
ただし被後見人は、判断力が全くないという重度の病理所見が重要なる判断材料になります。
追認は、本人が行った行為を認め、法律行為として成立させようとするものです。
法定代理人の権限は強力ですから、本人が行った行為について、取り消し・追認できることにより、法律行為を本人の利益のために完成し得る権限です。
「保佐」という立場
保佐人という立場は後見人より権限は軽く、判断力が少し不十分と認定された本人(被保佐人)を、保佐する役目になります。
判断力が不十分とはいえ、まだ自己判断がある程度できる状態のため、保護者なる保佐人の責任力は「後見」に比べて軽減されています。
保佐人は、本人が認知症(重度ではない)などの病理症状を発症し、判断能力が乏しい場合、同意もしくは取消権を行使できます。
同意・取消権限の範囲は、家庭裁判所の判断に委ねられ、一律なる規定で縛り込むことは不可能とされています。
取消権は保佐人の同意なくして結んだ契約などが対象であり、「保佐」という立場を持つ代理権は、常に同意ありきの考え方です。
ただし本人の生活権にまで入り込むことはできず、食料品や日用品などを購入する「日常生活に関する権利」は、本人の自由意思の決定を尊重する観点から、代理権を持つ保佐人といえども権限を越境して介入してはならないとされています。
「補助」という立場
被補助人は、判断能力が不十分とされた人です。
保佐人より、補助人は法的地位と権限が劣ります。
相手の健康と状態(医師の判断力と診断書)によって設定効力が違うと同時に、申立人によって、保佐とするか補助とするかに分岐します。
保佐人の同意・取消権は、補助人のそれと似通っている類型にみえますが、保佐するほどではない補助という考えが主流です。
要するに、保佐人と補助人の権限に相違は、家庭裁判所の決定力によって、権限範囲が違ってくると考えてください。
成年後見人になれる人と選定方法
成年後見人には、司法書士などの専門家がなる場合が増えてきています。
ただし、民事法において後見人になれない欠格事由はあります。
- ・未成年者
- ・家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人、補助人
- ・破産者
- ・被後見人に訴訟を起こした者や直系血族
- ・行方不明により成年後見の仕事ができない人
上記は、後見人になる資格はありませんから除外されます。
また、すべて家庭裁判所が選任する手続きですから、親族間に争いがある場合や本人の資産が大きい場合、後見人の候補者が高齢の場合は、後見人として認められない場合があります。
やがて、相続段階の関係で係わってきますが、親族間で揉めていないことは重要ですからご注意ください。
成年後見人は、トラブルを起こさない人
家庭裁判所が選任する成年後見人は、結果として、親族間などでトラブルを起こさない人となります。
法的に認められていない欠格事由がないからといって、後見人に選任されるとは限らず、後見制度から排除される場合があります。
成年後見制度は、被後見人の法律行為を完成させ、および財産を管理する代理人を設定する制度です。
人格的に粗暴性が激しい場合などは危険なため、当然選任されず排除されることになります。
代理して人の面倒を看ることは簡単ではなく、後見人には人間性や人格評価で判断されますからご注意ください。
専門家に依頼するケース
成年後見制度は、親族間でも揉め事や訴訟を抱えていると、後見人に選任されません。
そこで、司法書士や弁護士などの専門家が後見人になる場合が増えてきています。
法律の専門家に委ねた場合、第三者として客観的に判断ができるからです。
親子兄弟は長年の心情があって、どうしても利害関係人となります。
そのため、感情が強く入り込みやすくなり、正確に判断ができないことがあります。
このような場合は、専門家に依頼したほうがよいでしょう。
成年後見制度を利用する理由・メリット
この制度を利用するメリットはどこにあるのでしょうか。
判断力が不十分な本人が締結した契約の取り消し、および財産の管理を代理できることがメリットです。
財産の管理ができる
成年後見制度を利用するメリットは、本人に代わって法律行為・財産管理を行うため、本人の財産をある程度、自由に移動させることができます。
後見人は代理権限を持っていますが、財産管理はすべて自由ではなく、家庭裁判所が選任した監督人の管理の下に置かれます。
報告義務を怠らないようしなければならず、裁判所は後見人が代理人として行った財産の移動チェックをしてきます。
監督チェックを受ける代理権限ですが、本人の利益を中心とした金銭を含めた財産移動は許されます。
ただし、本人の利益のためですから、後見人・保佐人・補助人は自分のために本人の財産を勝手に流用および処分すること許されません。
不要な契約の取り消しや契約の代理ができる
本人が締結した不要な契約を取り消したり、介護サービスの契約などを代理するメリットがあります。
すべて本人のためにある契約に関係する法律行為を、本人に代わって行う代理権限です。
成年後見制度は、たとえ意思能力の判断力を欠いたとしても、本人(被後見人)中心主義なる支援制度です。
しかし、代理人は権限の強弱はあっても、代理権を持っているにしか過ぎません。
身の回りの世話や介護をしてくれるためにある後見人制度ではなく、飽くまで法律行為を代理する制度ですからご注意ください。
成年後見制度を利用する際の注意点・デメリット
続いて、デメリットについて見てみます。
報酬面の費用と手間がかかる、後見人になったら自由に降りられない、相続対策がやり難くなる、資産運用を積極的にできず制御される、などがあげられます。
後見人へ報酬を支払う必要がある
成年後見制度は、無料ではなく申立て費用など必要経費がかかり、手続きに時間と手間がかかります。
家族なら、無料ということは十分あり得ますが、法律の専門家など他者に後見人になってもらうと、報酬を毎月支出する必要があります。
根拠となる手続きには、医師の診断者や法的手続き上の収入印紙など手間と費用がかかります。
しかも後見人決定を受けるまで相当期間を待たなければならなりません。
代理人は、身の回りの面倒見る世話役ではありません。
法律の専門家といっても、ボランティアで仕事をしてくれませんから、金銭面の負担は必要になってきます。
士業の業務として、成年後見制度は高齢化社会の到来とともに、親族の依頼によって後見人になるニーズが増えてきている現状です。
自由に解任できない
成年後見人として、家庭裁判所から一度選任されたら、あとで自由に解任できないというデメリットがあります。
一度、認められたら、後見人は自分の自由意思において、勝手に後見人なる立場から降りることは許されません。
裁判所が下す決定力に強い強制力がある理由は、申立てに基づいて判断・決定したからです。
結果論ですが、成年後見制度は、法的に認められた代理権を付与されても、代理人個人は代理業務として、自由を法的制御に委ねることになります。
相続対策ができなくなる
成年後見制度は代理制度ですから、後見人(代理人)は代理する範囲を逸脱することは許されません。
本人の法律行為を代理し、財産を管理することはできますが、やがて来るべき相続対策ができないというデメリットがあります。
相続対策は、生前贈与制度の利用および財産分与の遺言を遺すなどがありますが、後見制度を利用すると一切、動きが取れなくなります。
特に、代理人が将来、相続人になる予定がされている場合、本人の財産を代理権限で代理人自身の財産に勝手に移動させてしまうと、代理権限の逸脱になり、後見制度の趣旨に合致しませんから結果として事前の相続対策ができない状況になります。
積極的な資産運用ができなくなる
相続対策ができない事由と関連して、本人の財産を管理できたとしても、資産運用はできなくなります。
資産運用は本人が行うべきですが、後見制度は本人の意思判断力が乏しいために後見・代理する制度です。
代理人固有の資産になっておらず、代理権限で自己のために資産運用をすると、権限を逸脱し乱用したとみなされ、家庭裁判所からチェックがかかり、代理権限を失ってしまいます。
本人は資産運用をできない病状であり、特に法定後見制度において、土地・建物の有効活用や投資活動について、後見制度の代理権は判断力が乏しい本人の経済活動を支援・支配するものではありません。
結果として、家庭裁判所が随時、財産チェックを行いますから、積極的資産運用はできなくなります。
まとめ
成年後見制度は、被後見人の面倒を看るためにある制度であり、後見人は本人になり代わって、法律行為と財産管理ができます。
成年後見制度には時間軸を中心として法定後見制度と任意後見制度の2つの種類があります。
さらに、本人の病状などによってそれぞれ違う判定基準を持つ、「後見・保佐・補助」の類型があります。
メリット・デメリットもありますから、よく検討して来るべき自分の家族や家庭を考えながら、制度を利用できるかどうかを検討しましょう。
老齢化社会を乗り切るために、誰もが直面する問題ですから、よく吟味することが必要です。