目次
この記事でわかること
- ・破産手続要因について理解できる
- ・費用不足でも法人破産できる方法がわかる
- ・法人破産ができない破産障害事由がわかる
- ・法人破産を申立てる権利は誰にあるかがわかる
法人の破産要件は、個人の自己破産よりも緩やかに設定されています。
これは、会社が有限責任であることから、早期に破産申立てがされることで、債権者へ公平な配当が行われることを狙ったものといえます。
早期に対処することで、従業員や取引先にかける迷惑を最小限に食い止めることもできます。
こちらでは破産手続きの費用の問題や、そもそも法人破産できるのか?といった問題について説明します。
法人が破産するための破産手続開始原因とは?
「破産手続開始原因」とは、いったいどのようなものでしょうか。
法人が破産を申し立てると、裁判所は、手続きを開始するだけの原因があるかどうかを審査します。
これを破産手続開始原因といい、破産法には、支払不能または債務超過という条件を挙げています。
そこで、この2つの条件について順に説明していきます。
支払不能
支払不能とは、「約束した支払日に、支払うことができず、さらにその先も支払いができないであろう状態」を指します。
定義としては「債務者が支払い能力を欠くために、弁済期にある債務を一般的、継続的に弁済することができない状態」とされています。
例を挙げて説明します。
現時点では現預金が不足し、月末の支払日に支払いをすることはできない。
しかし翌月の初めに納品予定があり、その代金が入金されれば支払いができるという場合。
これは、支払不能とはいえません。
一方、経営者が「この商品は近い将来、需要が高まり、確実に多額の売上があがる」と信じていたとしても、現実的な売上がまだなく、その先の支払いもできないであろうと状態であれば、その法人は支払不能であると言えます。
さらに、「今は払えないが、いずれは支払う」という気があっても、法人が支払を停止したといえる状況にあれば、これも支払不能だと推定されます。
この「支払停止」は、どういったものか、もう少し説明します。
判例では「債務者が資力欠乏のため、一般的かつ継続的に債務の支払いをすることができないと考えて、その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為」と定義されています。
例えば、
- ・債権者に支払い停止の通知を弁護士に依頼した場合
- ・営業していた店舗や事業所をすべて閉鎖した場合
- ・2回目の不渡り手形による銀行取引停止処分を受けた場合
などは、会社が支払いを停止した事実を外部に表明する行為だと考えられるため、「支払不能」の状態にあると推定されます。
債務超過
会社の財産をもってしても債務を完済できない状態のことを、「債務超過」といいます。
客観的な数字で判断できる要素として、会社の貸借対照表が債務超過であれば、破産法上も債務超過ということになります。
「債務超過」の状態は、前項で説明した「支払不能」の手前の段階と言えますので、法人破産は個人破産よりも早い段階で破産を申し立てることができることになります。
これは、株式会社などの法人が有限責任であるためです。
株式会社の場合、債権者に対する責任は資本金の限度でしか負いません。
ですから、破産申立ての時期が遅れ、債務超過が深刻になればなるほど、債権者の保護も薄くなっていきます。
法人の中でも株式会社は有限責任ですが、合資会社・合名会社、また自然人(個人)は、無限責任を負っていますので、「債務超過」は破産原因とはなりません。
費用不足等で法人破産できない(破産障害事由)ときの対処法
法人が破産手続きの申立てをする場合、破産手続開始原因(支払不能また債務超過)があったとしても、破産障害事由があるときは、破産は認められません。
破産障害事由とは、破産手続きを始めることができなくなる事由という意味で、破産法では大きく2つの破産障害事由を定めています。
1つ目は、「破産手続の費用の予納がないとき」
2つ目は、「不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき」です。
ここでは、まず1つ目の「破産手続きの費用の予納がないとき」について説明します。
破産手続きの費用の予納がないとき
法人破産のために、弁護士に依頼して裁判所に破産申立てを行う場合には、この依頼弁護士に支払う費用(着手金等)だけでなく、裁判所へ納める予納金という費用も必要です。
裁判所に予納金が納められなければ、その先の破産手続開始の決定も出ません。
予納金の金額は、法人の債権者の数、債務額によって異なり、通常ですと70万円以上必要になります。
ですが、大規模な破産事件でなければ、弁護士を申立て代理人とすることで、「少額管財」として扱われ、予納金を20万円にまで抑えることも可能です。
「少額管財」は、東京地方裁判所をはじめ、多くの裁判所で採用されている方式ですが、各裁判所によって異なりますので、事前の確認が必要です。
費用不足の対処法
法人破産するためには、弁護士費用、裁判所に支払う予納金など、費用がどうしても必要になりますが、この費用がない状態のときは、諦めるしかないのでしょうか。
ここでは、会社にお金がない状態でも、法人破産の手続きを進められる方法について説明します。
弁護士に相談する
法人破産するのに必要な費用がなく、弁護士費用もない場合、弁護士へ相談することはハードルが高く見えます。
ところが、無料相談を実施している弁護士事務所もありますし、法人破産を多く扱う弁護士は、「費用がない」という話には慣れていますので、あきらめずに相談しましょう。
弁護士が法人の決算書類やヒアリングにより財産を調査し、売掛金の回収や、財産の換価など、破産に必要な費用を捻出する業務を行ってくれます。
そもそも、弁護士へ依頼せず、代表者自身が手続きを行おうとする場合は、少額管財が利用できず、裁判所へ支払う費用がトータルで見ても高額になるケースが多いです。
売掛金の回収
売掛金に限りませんが、請求することができる債権がある場合は、それらを請求し、会社の財産を増やします。
これまで、なかなか支払ってもらえずあきらめていた債権があれば、弁護士に相談して回収しましょう。
財産の換価(現金化)
破産申立て前に、会社の資産(不動産屋、備品類、業務用の車両など)の一部を換価して、その売却代金を破産費用に充てることができます。
しかしながら、どのような財産でも勝手に売り払ってよいわけではありません。
法人破産する場合には、事業を停止した時点の資産を減らすことができず、破産管財人が、換価し、債権者に分配することになるからです。
適正な対価で換価し、その売却代金を事業に充ててはいけません。
不正な方法によって財産換価され、それが「財産隠し」とみなされれば、破産手続きに悪影響が及びます。
自己判断せず、依頼弁護士に相談しましょう。
弁護士費用の分割支払い
依頼してすぐに弁護士費用(着手金)を支払えない場合、弁護士に分割支払いにしてもらう方法を相談することができます。
弁護士に依頼し、債権者に対して弁護士から受任通知を送ってもらうと、会社に直接取り立てをすることができなくなります。
そのため受任通知の送付後は、売上金や、資産の売却金を、破産費用にすることができます。
事業の停止前にこれらを行い、弁護士費用への分割支払いに充てます。
予納金の分割支払い
弁護士に依頼し破産手続きを申立て、かつ少額管財を利用したとしても、予納金は最低でも20万円必要となります。
しかし、この費用が用意できないこともあります。
その場合は、破産管財人に交渉し、予納金を分割払いにしてもらうことが可能です。
ただし、分割交渉するためには、近いうちに支払うことができる見込みがあることが必要です。
親族からの援助
破産手続き費用がない場合、代表者の親族等から援助を受けて支払うこともできます。
ただ、さらに借金して費用に充てることはお勧めできません。
法人が支払不能の状態となり、その後さらに借金をすることは、法人破産手続が認められない可能性もあるからです。
法テラスの利用はできるか?
法テラスとは、正式名称「日本司法支援センター」のことです。
公平な司法制度の利用を実現するために設立された、法務省所管の独立行政法人です。
法テラスでは、おもに個人の法律問題について、一定の所得条件・財産要件を満たすことを条件に、費用の立替払いをしてくれます。
ただし、あくまでも個人の法律問題に限られますので、法人の破産手続費用の立替は行ってくれません。
そこで、代表者個人の破産に関してのみ、法テラスから費用の立替をしてもらうことが考えられます。
ですが、実際は会社経営者が裁判所に自己破産を申立てると、会社も同時に破産させるよう説得を受けることが多いのです。
つまり、代表者個人のみが自己破産を申立てる合理的理由が説明できない限り、難しいといえます。
破産目的が不当な場合
法人破産の申立てをしても、破産目的が不当・不誠実である場合は、認められません。
会社の経営が悪化し債務超過となり、また支払不能となって、破産を申立てることは仕方がないことです。
しかし、
「新会社を設立し、現在の会社の設備などの資産や、顧客、取引先などの良い部分のみを新会社に無償移転し、新会社で営業を継続させようとし、負債のみが残った現在の会社を破産申立てすることによって、債務を免れよう」
こういった場合は、不当・不誠実な破産目的であると評価される可能性が高いでしょう。
このような不当目的と評価される破産とは異なり、「会社の経営状態が悪化し、何とか改善するために新規事業を始めたり、融資を受けたりしたとしても、結果的には破産を申立てるしかなくなってしまった」という場合は、債権者や取引先に迷惑を掛けてしまう可能性もありますが、不当な目的とは評価されないでしょう。
破産の手続き上の要件(申立権)とは?
これまで説明した「破産手続開始原因があること」と「破産目的が不当でないこと」は、実態として法人破産の手続きを開始できるかどうかという問題です。
しかし、破産手続上の要件もいくつかあります。
その中でも最も重要なのが「申立権(申立ての権利者)」です。
法人破産の場合、申立ての権利者が申立てをしないと、適法とされません。
では、この「申立ての権利者」とは、どういった人でしょうか?
大きく分けて2種類の「申立ての権利者」があります。
債務者(お金を借りている側)
債務者である会社が、自身の判断で破産申立てをすることを、自己破産といいます。
会社の経営状態が悪化し、代表者が破産を申立てるというケースなどです。
代表者と説明しましたが、会社の経営者は代表者(社長)だけとは限りません。
複数の取締役がいる会社も多く、取締役会があることもあります。
例として、3人の取締役がいて、取締役会がある会社が、破産手続きを申立てようとする場合について、説明します。
法人破産を申立てるには、通常、取締役会の決議が必要となります。
破産申立書にも、破産申立てをすることを決定したという内容の取締役会議事録を添付します。
3人の取締役の場合、3人のうち1人が反対したとしても、過半数の賛成となりますので、破産申立てが可能です。
逆に、3人のうち2人が反対したとしたら、否決となり、破産申立てをすることができません。
しかし、破産しなければ、かえって取引先の迷惑を増大させてしまうとか、他の取締役が逃げてしまったとか、特別な事情がある場合には、取締役1人だけでも破産を申立てることができます。
これを、準自己破産といい、破産法にも定められています。
債権者(お金を貸している側)
法人の債権者(会社へお金を貸している側)にも、破産申立てをする権利があります。
債務者ではなく、債権者が破産を申立てる理由があるのかと、思われる方もいらっしゃると思いますが、法人破産の目的は、会社に残った財産を債権者に公平に分配することです。
経営状態が悪化した会社へ多額の融資をしている債権者が、「この会社の経営が改善される見込みはない。このままでは、更に悪化し、1円も回収できなくなる。最終的に行き詰ってしまう前に、破産手続きを行えば、多少なりとも配当を受けられる可能性がある」と考えた場合、債権者の方が、破産申し立てを行うこともあります。
【法人破産の前に】破産を決断できない場合の相談方法
会社の経営状態が悪化し、法人破産させるべきかどうか決断できない場合は、資金繰りに行き詰ってしまう前に、弁護士へ相談することをお勧めします。
最初は、無料相談で対応してもらえる弁護士事務所もあります。
弁護士には守秘義務がありますので、会社の現状や、法人破産するための費用、手続きの内容など、悩んでいることをすべて相談することができます。
取引先や従業員に大きな迷惑を掛けてしまう前に、まずは相談しましょう。
まとめ
法人破産をさせるかどうかは、大きな決断です。
経営が悪化した状態で、代表者が冷静に判断することは、とても難しいといえます。
最終的に、法人破産を選ばないという結論もあると思いますが、法人破産するにも費用は必要となります。
費用がない場合の対処法も説明しましたが、法人破産の申立てに必要な費用を捻出することすら不可能となる前に、自分に合った弁護士へ相談するようにしましょう。