この記事でわかること
- ・法人破産について理解できる
- ・法人破産のメリット・デメリットがわかる。
- ・手続きの流れと期間がわかる。
法人破産とは、いったいどういうものでしょうか?
「破産」と聞くと、マイナスイメージを持つ人も多いと思います。
ここでは、法人破産のメリット、デメリットから、実際の手続きにはどのようなことが必要なのか。
また、手続きにはどのくらいの期間がかかるのか?などについて、ひとつひとつ説明していきます。
法人破産とは
法人破産とは、個人ではなく株式会社などの法人が破産することを意味します。
法人には、株式会社や有限会社、合同会社(LLC)などの営利法人をはじめ、NPO法人(特定非営利法人)、一般社団法人、財団法人、医療法人など、様々な形があります。
これらが破産することを「法人破産」と呼びます。
では、「破産」とは、どういったものを指すのでしょうか?
債務超過や、支払い不能状態となり、負債を支払えない状態になったときに、負債と資産を精算する手続きのことをいいます。
手持ちの資産を整理し、可能な限り負債を支払い清算します。
法人の場合、破産によって債務が免除されるという制度はありません。
ただし、法人が破産することによって、その法人そのものが消滅してしまうので、事実上は、債務が免除されることになります。
民事再生との違い
法人破産以外にも、いくつか倒産方法があり、代表的な方法に民事再生があります。
民事再生とは、法人が抱える債務を圧縮して、圧縮された負債を完済することにより、法人が再生するための手続きです。
法人破産との違いは、会社が消滅しないで存続できるという点です。
破産の場合は、法人は消滅しますが、民事再生であれば、圧縮された債務を完済できれば、会社は存続します。
ただ、民事再生する場合、圧縮されれば支払える程度に収益力があることが必要です。
さらに、債権者の同意も必要ですので、希望したとしても認められないことがあります。
そうした場合は、民事再生の手続きが廃止されて、法人破産の手続きへと移行することになります。
法人破産のメリット
ここで、法人破産についてのメリット・デメリットについて考えてみたいと思います。
まず、メリットから考えてみましょう。
無茶な取り立てを止められる
法人が借金や買掛金などを支払えなくなると、取引先の企業などが、直接取り立てにやってきます。
個人の場合ですと、貸金業者などが執拗な取り立てを行うことは法により規制されています。
しかし法人の場合は、買掛金を回収したい取引先や、リース品の債権者なども多くなり、倉庫の商品を引き上げに来たり、事務所に直接乗り込んでこられたりするケースもあります。
これらの取り立て行為は、破産手続きを弁護士等に依頼することで止めることができます。
精神的に開放される
会社経営の状態が悪化してくると、経営者は精神的に苦境に立たされます。
経営がうまく行っているときは良いですが、経営状態が悪化してくると、融資や資金調達、負債の支払い、従業員の雇用など心配の種は膨らむばかりです。
その結果、常に会社のことを考えるようになり、精神的に追い込まれていきます。
しかし、できないことを悩み続けるよりは、破産することによって、これらの悩みから精神的に解放されます。
また、精神的に追い込まれた状態を脱することで、自身の家族を安心させることもできます。
新たなスタートが切れる
会社が破産すると、会社自体は消滅しますが、経営者の権利に制限が加わることはありません。
経営状態が悪化した会社に縛られることなく、新たに就職することもできますし、新しい事業を始めることも可能です。
法人破産のデメリット
続いてデメリットです。
あらかじめ、破産によるデメリットも理解しておきましょう。
会社が消滅する
法人破産することによって、その法人は消滅します。
破産だけして、法人を継続するということはできません。
経営者が創業者であった場合は、自分が生んで育ててきた会社がなくなってしまい、寂しいものです。
また、親の代など祖先から引き継いだ事業、会社であった場合は、自身の代で会社を消滅させてしまったことに対して、責任を感じることもあるでしょう。
個人保証している場合は代表者の財産も失う
基本的には、会社と代表者は別ですので、会社が破産しても代表者が個人の財産を失うことはありません。
ただ、現実には各種契約において代表者が連帯保証人となっていることが多いので、代表者の個人的財産は一部を除き、失われる結果となります。
連帯保証しているかどうかは、契約内容、取引形態等によって異なりますので、事前に確認をすることをお勧めします。
すべての資産がなくなる
法人破産によって、法人名義の預貯金、土地・建物などの不動産、さらに築いてきたブランドや信用といった無形の財産も、すべて失うことになります。
また、代表者自身も「経営していた会社を破産させた経営者」として、近隣や業界では、信用や信頼を失う結果となります。
法人破産の手続きの流れ
法人破産の手続きの流れを、順を追って説明していきます。
ここでは、弁護士に依頼した場合に基づいています。
(1)弁護士と相談
破産手続きを考えたら、まずは弁護士に相談しましょう。
実際に破産手続きを行うかどうかも含めて、どのようなことができるかについて依頼する弁護士に相談・確認します。
そして、法人破産するということになれば、破産の手続きについて相談し、手続きの進め方や方針を決めます。
法人破産手続するためには、以下のような内容について、弁護士に相談・説明する必要があります。
なお、弁護士には守秘義務がありますので、安心して隠すことなく説明しましょう。
経営状態悪化の経緯
債務を抱え、経営状態が悪化してしまった経緯について説明します。
この経緯、原因を説明することで、後々の方針が決めやすくなります。
債務の内容
金融機関からの借入金、仕入先等の買掛金や支払い状況、リース品の代金支払いなど、どのような債務があるかを、まとめます。
破産手続きにおいて、最も重要なものですので、漏れがないようにしましょう。
会社の資産
法人破産では、資産はすべて売却して債権者への配当に回す必要があります。
土地・建物などの不動産から、預貯金、商品の在庫など、どのような資産があるかを説明し、把握します。
従業員の人数と雇用形態
従業員を雇用している場合、従業員はすべて解雇することになります。
人数や雇用形態を説明し、どのような手続きをとっていくかを相談します。
整理解雇となりますので、不当解雇などの主張をされないように手続きを進めていく必要があります。
店舗や事務所の賃貸関係
店舗や事務所を賃貸している場合は、立ち退く必要がでてきます。
どのような賃貸契約をしているかをあらかじめ、説明します。
代表者の連帯保証債務
小規模な法人の場合は、特に代表者が法人の債務を連帯保証することを求められます。
代表者が法人の債務を連帯保証している場合、法人破産すると、連帯保証人である代表者に請求がまわってきます。
そのため、代表者自身の個人破産が必要な場合もありますので、連帯保証している債務内容について、説明して相談しましょう。
合わせて、代表者自身の今後の生計の立て方についても方針等を説明し、コンセンサスを得ておくようにします。
(2)債権者への破産予定通知
弁護士と破産の方針を決めた後、債権者へ破産予定であることを通知します。
この通知は「受任通知」といい、弁護士から文書の形で送付してもらいます。
弁護士が破産の申し立てについて、会社から依頼を受けたということを指します。
送付後は、債権者からの連絡先をすべて弁護士宛とすることができますので、代表者や会社には直接連絡がこなくなります。
(3)従業員の解雇と賃貸物件の明け渡し
雇用している従業員を全員解雇し、店舗や事務所などを賃貸している場合は、その物件の明け渡しが必要になります。
法人破産の際の解雇は、「整理解雇」といいます。
法令、判例上必要とされる手続きを守って進めなければ、不当解雇を主張される場合もありますので、事前に十分、弁護士に相談するようにしましょう。
(4)申立書、必要書類の準備
法人破産手続のための申立書は、弁護士に依頼している場合は、弁護士が作成します。
申立書の内容や、必要資料は弁護士の指示に従い、説明、準備しましょう。
準備に時間がかかるものもありますので、早めに準備するようにします。
合わせて、代表者個人も破産申立てが必要な場合は、弁護士の指示にしたがって書類を準備しましょう。
(5)裁判所への破産申立て
依頼した弁護士が、裁判所に申立書・必要書類を提出して、破産の申立てを行います。
破産申立て後、約2週間で裁判所が破産手続開始決定をし、手続きが始まります。
そして、破産手続開始決定とともに、裁判所が破産管財人を選任します。
破産管財人とは、破産する会社の財産を換価し、債権者に配当する弁護士のことです。
この破産管財人は、裁判所から任命される弁護士であって、破産申立てを依頼している弁護士とは異なりますので、ご注意ください。
破産の申し立ての後は、この破産管財人との打ち合わせが多くなります。
この打合せは、通常元々依頼している弁護士と一緒に、必要な事項について破産管財人とすり合わせていきます。
(6)破産管財人の法人財産売却
破産管財人が、法人の土地建物などの不動産、商品在庫や備品等を売却し、換金していきます。
代表者も、必要に応じて売却手続きに協力する必要があります。
財産の種類によって、売却に時間を要することもあります。
(7)債権者集会
債権者集会とは、破産者が破産に至った経緯や会社の資産状況について、債権者や裁判所に説明する裁判所で行われる手続きです。
この債権者集会は、破産手続開始決定後に、期日が決まります。
ただ、この債権者集会に債権者が出席することは現実には多くはなく、申立てをした弁護士、破産管財人、会社の代表者、裁判官で行われることがほとんどです。
ですが、個人の債権者が参加している場合は、紛糾することもあります。
債権者集会は、破産手続きの進捗状況を確認するために、複数回行われますが、規模により1回で終わる場合もあります。
(8)債権者への配当
破産管財人が法人の財産を売却し終えると、債権者への配当が行われます。
管財人は、法的な順序に従って、債権者へ配当を行い、裁判所に報告します。
このとき、配当するような財産がない場合は、異時廃止といって破産手続きは終了します。
(9)手続きの終了
配当が終わると、破産の手続きは終了となります。
法人が消滅し、会社の登記も閉鎖されることとなります。
破産手続きにかかる期間
法人破産の手続きが終了するまで、どのくらいの期間がかかるのでしょうか?
この期間は、その法人の規模や、債務・財産の状況などによって、変わってきます。
ですから、一概にどのくらいの期間とは言えませんが、少額管財相当の事案であれば、破産手続きの開始から概ね3ヶ月~1年程度で終結するのが一般的です。
規模が大きく、法律問題等を含む場合は、期間は長くなっていきます。
少額管財とは?
ここで、少額管財について説明しておきます。
破産管財人が選任される場合のことを管財事件といい、破産手続きを進めていくためには最低限の実費や破産管財人の報酬が必要となります。
これらの費用は、申立人の側で用意しておく必要があります。
迅速に手続きを終了できるような事件については、この金額を少額化するという場合があり、このことを「少額管財」と呼んでいます。
この少額管財の運用は、破産法の規定に基づくものではなく、あくまでも裁判所の運用の一種です。
ですから、裁判所によっては、この運用を行っていないところもありますので、注意が必要です。
ただ、東京地方裁判所をはじめ、多くの裁判所で少額管財の運用がとられていますので、事前に弁護士に確認するようにしましょう。
少額管財における期間は?
少額管財の運用がなされる手続きの場合、第1回目の債権者集会は、破産手続開始決定日から、おおよそ3ヶ月後の日程が指定されます。
その第1回目の債権者集会までに、破産管財人の業務が終了し、かつ配当手続がない場合は、その期日で「異時廃止」により破産手続きは終結します。
破産管財人の財産売却等により、債権者への配当手続がある場合は、さらに1~2カ月くらいの期間を経て、破産手続きが終了します。
ですから、少額管財となった場合は、最短で3ヶ月ほどで終了するということになります。
ただし、たとえ少額管財となっても、財産の現金化に時間がかかる場合も当然あります。
その場合は、第1回目の債権者集会では終了せず、第2回、第3回と続行されます。
一般的に、それぞれの債権者集会の間隔は、2~3ヶ月程度とられますので、手続き終了までの期間が長くなっていきます。
とはいえ、少額管財の事件である場合は、大規模な事件ではありませんので、法人破産の手続きの期間は、3ヶ月から1年程度となるのが一般的といえます。
【参考】コロナによる法人破産
帝国データバンクによると、8月20日16時時点で、新型コロナウイルス関連の法的整理件数は、373件となっており、うち破産件数は342件となっています。
今後も、この件数は増えていくことは明らかで、第2波の懸念も深まる中、破産を検討せざるを得ない経営者の方も多いのではないでしょうか。
・「新型コロナウイルス関連倒産」(法人および個人事業主)は、全国に450件判明(8月20日16時現在)
・法的整理373件(破産342件、民事再生法31件)、事業停止77件
・業種別上位は「飲食店」(62件)、「ホテル・旅館」(49件)、「アパレル・雑貨小売店」(32件)、「建設・工事業」(28件)、「食品卸」(27件)、「食品製造」(21件)など引用:帝国データバンク
新型コロナウイルス関連倒産
今回の新型コロナがいずれ収束するとしても、売上をコロナ前の状態に戻せない会社がたくさん出てきても、不思議ではありません。
現在は、金融機関も国の意向に沿うかたちで、中小企業の返済猶予にも積極的に応じているようですが、今後、市場の動向次第では、金融機関の姿勢が突然方向転換する可能性も否定できません。
また経営者側も、コロナ前の業績も鑑みながら、冷静にそうした事態に備える必要があります。
会社の経営を継続するのが困難となっている経営者は、手遅れになる前に、弁護士に相談することをお勧めします。
まとめ
誰もが破産などしたくないものですが、法人破産のメリット、デメリットをしっかりと考慮し、早めに弁護士に相談することで、前向きな再スタートを切れることもあります。
会社の経営状態、債務、資産の状況を整理し、必要に応じて、弁護士に相談しましょう。
破産手続きを行うことで、精神的な苦境から逃れ、弁護士による清算ができるようになります。
特に、代表者自身が法人の債務を連帯保証している場合は、個人破産も必要になってくる場合もありますので注意しましょう。
破産手続きは、弁護士に依頼した場合は、ある程度お任せすることができますが、特に最初のヒアリングや、破産管財人が選定されてからの財産の換価への協力などが必要です。
期間も、破産手続開始決定から3ヶ月から1年程度はかかりますので、最初に弁護士としっかり打合せをしましょう。