この記事でわかること
- ・土地の相続税を計算する方法がわかる
- ・土地の路線価とは何かがわかる
- ・相続税率が決まる仕組みがわかる
- ・特例を利用した相続税対策がわかる
相続税が、いくらかかるのか?は、気になるところでしょう。
相続財産の中でも、特に土地に焦点をあてて、相続税の計算方法について解説します。
また、土地の相続税を計算する上で必要な、路線価とは何か?についても説明していきます。
土地の相続税を計算する方法
相続財産の中でも、最も大きなウエイトを占めるであろう「土地」。
この土地を相続した場合、どのくらい相続税がかかるのでしょうか。
そもそも、どういう計算をするのでしょう。
土地の相続税は、「6,000万円の土地を相続する場合は、税率30%で、相続税は1,800万円」というような単純な計算はできません。
そもそも、土地の価格だけで、相続税の計算ができないからです。
おおまかに、相続税の計算方法について説明します。
(1)土地だけではなく、預貯金などすべての相続財産の金額を計算します。
(土地の価格+預貯金等=課税価格)
(2)その相続財産の総額を、相続人の比率で計算します。
※相続人が配偶者と子2人等、法定相続人の数によって課税価格が変わります。
(課税価格-基礎控除額=課税遺産総額)
(課税遺産総額×法定相続分=各取得金額)
(3)相続の課税価格(各取得金額)に合わせて税率が決定します。
土地にかかる相続税を計算するためには、上記のように段階をおった計算が必要になります。
実際には、課税価格に含まれる遺産等が土地と預貯金以外にも多くあります。
ですが、ここでは土地だけの相続税を求めるために、概要について順を追って説明していきたいと思います。
相続財産の総額の求め方
まずは、相続財産の総額を求めます。
相続財産とは、土地だけではなく、建物、現金、預貯金、生命保険金など相続する全ての遺産の総額をさします。
相続財産の総額には、実際は、上記のようなプラスの遺産だけではなく、借金や連帯保証人などのマイナスの遺産もあり、葬式費用や3年以内の贈与財産など、細かく計算するものがありますが、ここでは、一般的にウエイトの大きい財産に限って、概算していきます。
相続財産の総額の概算
概算上、ウエイトの大きい財産
- (1)土地
- (2)預貯金
- (3)生命保険
これらについて、順に詳細を説明します。
土地
毎年送られてくる固定資産税明細書をご用意ください。
概算上、ここに記載されている固定資産評価額を1.14倍した金額が、相続税評価額となります。
なぜかというと、土地の価格は、一般的に時価(実際に売却するとした場合の取引価格)を100とすると、相続税評価額は80となり、さらに固定資産税評価額は70と捉えることができるからです。
ですから、固定資産税評価額が7,000万円だとして、1.14倍すると7,980万円が相続税評価額となるわけです。
このような計算方法では、実際の金額は算定できませんが、おおよその目安を把握するという目的でご使用ください。
預貯金
銀行や郵便局に預けてあるお金や、家にある現金の総額です。
生命保険
被相続人が保険料を払い、契約者だった場合の保険金の額です。
被相続人以外が契約者の場合は、遺産総額には含まれません。
相続財産の総額の計算例
仮に以下のような相続財産があった場合の計算を概算で行いたいと思います。
- ・土地:固定資産税評価明細に記載されている固定資産評価額が7,000万円
- ・銀行預金:1,500万円
- ・現金:500万円
- ・生命保険金:2,000万円
土地(7,000万円×1.14)+預金1,500万円+現金500万円+生命保険金2,000万円
=相続財産総額1億1,980万円
この金額が、概算の総額となります。
相続財産の総額を正確に求めるには
相続財産の総額をおおまかに把握するために、概算で総額を知る方法を説明してきましたが、実際の相続時には、正確に算出する必要があります。
相続財産を正確に算出するためのポイントは、「財産価値を正確に評価する」ことです。
財産の価値・価格を求めることを、「評価する」と言います。
何故、財産の価値を正確に評価しなければならないかと言うと、税務署に「脱税の可能性がある」と判断されることがあるからです。
例えば、土地の価額について考えてみましょう。
固定資産税評価明細書に記載されている土地の価額は、実際の価格とは異なります。
ですから、この価額をそのまま税務署へ申告した場合は、「実際の価額はもっと高い」「その分、相続税をごまかして脱税している」と判断されることもあります。
正確な相続財産の評価をすることで、税務署に指摘されない適正な価額を算出できます。
以下は代表的な相続財産の評価方法です。
土地の評価方法
概算では、固定資産税明細書に記載されている固定資産評価額を1.14倍して、相続税評価額としましたが、実際は、路線価方式または倍率方式を使って計算します。
路線価とは、土地価額を計算するために用いる1㎡当たりの土地価額です。
こちらについては、詳しく後述しますので、参考にしてください。
現金・預貯金・生命保険金の評価方法
預貯金は、銀行口座にある金額を漏れなくまとめるだけです。
被相続人が複数の口座を所有していた場合などは、注意しましょう。
生命保険金は、受取時に保険会社から発行される通知書に記載された額をそのまま使用します。
株式等の評価方法
上場株式は、価格が市場で決定されていますが、非上場の株式の場合は、市場に公開されていないため、価格が決されていません。
被相続人(亡くなった方)が、株式会社等を経営していた場合は、このようなケースにあたります。
この非上場株式を決めるためには、会社規模や財産の状況などと照らし合わせて評価していく必要があります。
路線価で見る土地の評価額
正確に土地の評価額を計算するためには、路線価方式を使うと説明しましたが、ここで路線価による土地の評価額について、具体的に説明していきます。
土地の評価の方式は、路線価方式のほかに、倍率方式というものもあります。
この倍率方式は、路線価が決められていない山林や農地といった場所に適用されるものです。
ここでは、一般的な住宅地を想定して、路線価について説明していきます。
路線価とは
路線価とは、土地の価格を計算するために使用する1㎡当たりの価格です。
路線価は、国税庁のホームページから検索することができます。
引用元:国税庁:路線価図
このホームページの地図から、調べたい土地を探すと、地図の道路1本1本に数字とアルファベットが書かれていることが分かります。
まず、この地図で調べたい土地に面している道路の数字を見てください。
例えば、「200C」などと書かれています。
これは、「この道路に面している土地は、1㎡当たり20万円の価格です」という意味です。
路線価は、千円単位で表記されていますので、200であれば、200千円となり、20万円ということになります。
ちなみに、数字の後についているアルファベットは、A~Gまであり、借地権割合を表しますが、借地権を持っている人だけに関係しますので、現時点では無視してください。
路線価を使った計算例
路線価がわかったところで、あとは土地の面積と掛け合わせるだけです。
土地の面積は、毎年家に送られてくる固定資産税明細書か、登記簿謄本に記載されています。
土地の面積が400㎡だとして計算しますと
面積400㎡×路線価20万円=8,000万円
となります。
土地価額の補正とは
土地の評価額の概算を知る上では、「土地の面積×路線価」の計算で十分です。
しかし実際には、
- ・土地の形がいびつな場合
- ・広すぎる土地の場合
- ・間口が狭い場合
などのように、キレイな長方形のような土地と比べて、利用価値が下がる要因がある場合は、適正な評価額を求めるために、補正されます。
具体的には、路線価を使った土地価額に補正率が掛け合わされます。
補正率には、主に下記のような種類があります。
- ・不整形地補正率
- ・奥行価格補正率
- ・無道路地補正率
- ・間口狭小補正率
- ・私道補正率
さらに、これらの補正率による補正の他にも、様々な評価補正の項目があります。
- ・広い土地(500㎡以上など)
- ・傾斜地、一部が崖になっている土地
- ・道路との間に高低差がある土地
- ・水路に面している土地
- ・都市計画予定地の区域内にある土地
- ・空中に高圧線がある土地
- ・セットバックがある土地
- ・容積率の異なる複数の地域に存在している土地
- ・市街地の中にある山林や田畑
- ・路線価がついていない道路に面した土地
どういった場合に、このような補正が必要かというと、「路線価×土地の面積」で求めた価格と実際の取引価格に大きな差がある場合です。
いびつな土地200㎡と、きれいな長方形の土地200㎡では、建物も建築しやすいので、きれいな長方形の土地の方が、高く取引されます。
こういった価格の差を補正するのです。
正確な土地の相続税評価額は、税理士によっても算出する評価額に差が出る程ですので、ここでは、こういった補正があるということだけ、理解しておいてください。
相続税率が決まる仕組み
相続税率は、個人の法定相続分に応じた取得金額によって、決まります。
例えば、取得金額が3,000万円超5,000万円以下となった場合は、20%といった具合です。
この相続税率が決まる仕組みを、順に説明していきます。
個人の相続税額は、(1)課税対象の遺産の合計額をもとに、(2)各相続人の取得金額を算出し、その数字に応じて設定された相続税率をかけ合わせることで導きます。
(1)課税対象の遺産の合計額
こちらは、まず前述の「相続財産の総額」を思い出してください。
土地や預貯金、現金、生命保険金などの合計です。
実際は、プラスの財産だけではなく、マイナス財産や贈与財産など絡んできますが、シンプルに相続財産の総額ととらえてください。
この「相続財産の総額」(各課税価格の合計額)から、基礎控除額を引くと、「課税対象の遺産の合計額」となります。
ここで、基礎控除額について説明しておきます。
基礎控除額は、(一律3,000万円)と(600万円×法定相続人の数)の合計額です。
例えば、相続人が配偶者(妻)と子2人だった場合、基礎控除額は、3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。
この基礎控除額が、相続財産の総額から引かれます。
(2)各相続人の取得金額
次に、(1)で求めた「課税対象の遺産の合計額」に法定相続分をかけて、各相続人の取得金額を算出してください。
例えば、基礎控除額を引いた「課税対象の遺産の合計額」が1億円だったとしましょう。
そして、法定相続人が、配偶者と子2人だった場合、法定相続分は、配偶者が1/2、子がそれぞれ1/4ずつとなります。
ですから、法定相続分に応ずる各取得金額は、
配偶者=1億円×1/2=5,000万円
子A=1億円×1/4=2,500万円
子B=1億円×1/4=2,500万円
となります。
この各相続人に振り分けられた取得金額に応じて、それぞれ設定された相続税率がかけ合わされ、控除額をさらに差し引くことで、個人の相続税額の目安が出ます。
ということで、この各相続人の取得金額が算出できて、初めて相続税率が決まるというわけです。
相続税の総額は?
各人の相続税額が算出できたら、これらを合計すると相続税の総額となります。
上記の場合の各人の相続税額は、
・配偶者
取得金額5,000万円×税率20%-控除額200万円=800万円
・子AとBそれぞれ
取得金額2,500万円×税率15%-控除額50万円=325万円
相続税の総額は、これらをすべて足して、1,450万円となります。
ただ、この時点での総額は、あくまでも目安です。
実際は、更にこの金額を元に、実際の各人の相続割合により、各人の相続税額を計算します。
実際の相続割合が、配偶者50%、子Aが30%、子Bが20%だった場合、
相続税の総額は1,450万円と変わりませんが、各人の実際の相続税額は変わります。
配偶者 1,450万円×50%=725万円
子A 1,450万円×30%=435万円
子B 1,450万円×20%=290万円
ここで、少しややこしいですが、配偶者は税額軽減制度が使えます。
配偶者の取得した遺産額に対する税額については、法定相続分もしくは1億6,000万円までのいずれか多い金額に対応するまでの税額控除があります。
つまり、上記の場合は、配偶者は法定相続分までの遺産額となりますので、725万円全額軽減されます。
ですから、上記のケースでの実際の相続税総額は、子Aと子Bにかかる合計725万円ということになります。
土地だけにかかる相続税の求め方
相続税の総額が出ましたら、これを元に土地だけにかかる相続税を計算することができます。
土地だけにかかる相続税は、下記のように割合を求めて算出します。
具体例として、
土地の価額が8,000万円、その他預貯金などを合わせた相続財産の総額が1億4,800万円。
相続人が配偶者を含めて3人。
計算の結果、相続税の総額が725万円とすると、下記のようになります。
土地価額の割合
土地の価額8,000万円/相続財産の総額1億4,800万円=54.1%
土地だけにかかる相続税
相続税の総額725万円×土地価額の割合54.1%=392万円
※端数切捨てしています。
つまり、土地だけにかかる相続税は、392万円ということになります。
特例を利用すると相続税対策になる
こちらでは4つの相続税の負担が軽くなる特例をご紹介します。
配偶者の税額軽減
相続税の計算方法でも出てきましたが、配偶者の税額軽減は、故人の死後の配偶者の生活への配慮などから、相続額が法定相続分または1億6,000万円までの場合は、課税されないという制度です。
法定相続分とは、他に相続人がいない場合は全額、子どもがいれば1/2となります。
小規模宅地等の特例
故人が生前に使用していた自宅の土地の330㎡(100坪相当)分までは、土地評価額の80%を減額することができるという特例です。
例えば、430㎡の自宅の土地があった場合、330㎡までの評価額は80%減額、残りの100㎡は通常の評価額として扱われます。
この特例は、減額の幅が非常に大きいため、相続税が数百万円単位で変わってくることもあります。
未成年者の税額控除
相続人が未成年者の場合、未成年者の税額控除が受けられ、相続税から一定の金額が差し引かれます。
障害者控除
相続人が障害者の場合、「障害者控除」が受けられます。
相続税額から、一定の金額が差し引かれます。
これらの相続税の特例は、すべての方に当てはまるわけではありませんが、当てはまる方は積極的に活用しましょう。
まとめ
相続税の計算方法について、ここまで説明してきました。
ちょっとややこしい部分もありますが、順を追って計算していけば、相続税の概算ができるようになるのではないでしょうか。
まだ、相続が発生していない方も、土地の路線価などを計算しておくと、おおよその相続税を把握できます。
相続財産額があまり多くない場合は、基礎控除で相続税がかからないという場合もありますが、相続財産額が大きい場合や、土地評価額が高い場合などは、税理士に相談してみることも検討しましょう。
また、実際の相続税の計算では、相続税の特例なども活用できますので、内容を理解しておきましょう。
参考記事:相続税の基礎2020|計算方法・相続税かかる?申告有無の判断まで解説!