目次
この記事でわかること
- ・遺言書の開封方法について理解できる
- ・遺言書の検認とは何かが理解できる
- ・遺言書の検認手続きの流れや必要書類がわかる
刑事ドラマの1シーンに、資産家が亡くなって遺品を整理している主人公がタンスの奥から遺言書を発見する場面がありました。
そして、「何が書いてあるのかしら?」と主人公が封筒を開いてしまいました。
しかし、現実には自宅で遺言書を発見しても、急に開いてはなりません。
遺言書の種類により、勝手に開封するとペナルティが科せられる可能性があるためです。
この記事では勝手に開封してはならない遺言書の種類や、開封手続きについて詳しく解説します。
また、種類ごとに、遺言書の特徴や改ざんの恐れなども解説します。
親や妻(夫)が亡くなって遺言書を見つけた方や、遺言書作成を検討したいという方は、ぜひ参考にしてください。
遺言書の種類により開封の手続きが異なる
遺言書を発見した相続人などは、勝手に開封してはならないと民法で定められています。
見つけた人が封を切っていいじゃないかと思う方もいるかもしれません。
しかし、封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。
では、どんな遺言書でも家庭裁判所で開封しなければならないのでしょうか?
遺言書の開封には例外があります。
それは、公正証書遺言です。
公正証書遺言は家庭裁判所で開封する必要はありません。
では、自筆証書遺言や秘密証書遺言はどうなのでしょうか?
自筆証書遺言書は家庭裁判所での検認が必須
遺言書を発見したら、家庭裁判所で「検認」という手続きを行わなければならない場合があります。
検認とはどんな手続きか、検認を要する遺言書の種類、検認しなかったらどうなるのか、見ていきましょう。
遺言書の種類
まず、遺言書を大きく分けると以下の2種類があります。
- ・普通方式
- ・特別方式
船舶危急時遺言など特殊な状況にある方が遺す遺言が特別方式です。
ただし、通常は普通方式の3種類の方法により遺言を書く方が多いでしょう。
普通方式には次の3種類があります。
- ・自筆証書遺言
- ・公正証書遺言
- ・秘密証書遺言
【遺言の種類】
普通方式の遺言 | 特別方式の遺言 |
自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言 | 死亡の危急に迫った者の遺言 伝染病隔離者の遺言 在船者・船舶遭難者の遺言 |
検認が必要な遺言書
遺言書は、原則として検認を受けなければなりません。
特に、普通方式の遺言の検認手続きや例外について見ていきましょう。
検認とは?趣旨と効力
遺言書開封には、家庭裁判所の「検認」という制度が定められています。
遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人は、遺言書の「検認」を家庭裁判所に請求しなければなりません。
この検認の請求は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく行う必要があります。
検認の趣旨は、遺言書の発見者以外の相続人に対し遺言書の存在及びその内容を知らせること、遺言書の偽造・変造を防止することです。
検認を受けると、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを明確にすることができます。
なお、検認はあくまでも、遺言書の偽造・変造防止などを目的とするため、遺言の有効性を判断するものではありません。
また、検認を受けなくても、遺言書が無効になるわけではありませんので、注意しましょう。
普通方式で検認が必要な遺言
普通方式遺言の種類と検認の要否は以下の通りです。
- ・自筆証書遺言…検認要
- ・公正証書遺言…検認不要
- ・秘密証書遺言…検認要
つまり、公正証書遺言の検認は必要ないということです。
自筆証書遺言の特徴
次に、一般的に用いられる自筆証書遺言の特徴を簡単に見ておきましょう。
【自筆証書遺言作成の注意点】
・財産目録以外は自筆(パソコンや代筆不可) |
・財産は正確に記載(例;不動産なら登記事項証明書の記載通りに、住所ではなく地番や家屋番号により記載) |
・署名または押印を忘れずに |
・夫婦共同遺言はできない |
・日付の明確な記載 |
・法的な効力がある記載事項かどうかよく確認 |
遺言書の記載事項には、法律で定められている事項(法定記載事項)と、それ以外の「付言事項」と呼ばれる事項があります。
付言事項を記載してもかまいませんが、法的な拘束力はありません。
たとえば、「家族仲良く暮らして欲しい」と自筆証書遺言に書いたとしても、法的な拘束力はないということです。
【法定記載事項の例】
相続分の指定 |
遺産分割方法の指定と分割の禁止 |
相続財産の処分(遺贈)に関すること |
遺言執行者の指定または指定の委託 |
相続人の廃除(推定相続人から虐待を受けた場合) |
財産目録をパソコンやワープロで作成するときの注意点は、遺言者は財産目録の各頁に署名押印しなければならないことです。
不動産の登記事項証明書や通帳の写しを財産目録とすることもできますが、これも各頁に署名押印しなければなりません。
秘密証書遺言の特徴
秘密証書による遺言も検認が必要です。
ただし、自筆証書遺言と大きく違うのは、公証役場に「遺言を作成した記録」が残る点です。
自筆証書遺言と公正証書遺言がよく利用されているので、秘密証書遺言を利用する人は多くありませんが、念のため、簡単に作成方法を確認します。
【秘密証書遺言を作成するのに遺言者がおこなう手続き】
遺言書の作成(パソコンで作成、代筆も可) |
遺言書に署名・押印 |
遺言書の封印 |
公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出 |
自己の遺言書である旨と書いた人の氏名と住所を申述 |
公証人が、遺言書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともにこれに署名し押印 |
秘密証書遺言は、公証人の手数料がかかるわりに、内容は遺言者自身が決めるので正確性を担保できない点で、あまり利用されていません。
ただし、遺言書の内容を公証役場においても明かしたくない人にとっては、秘密証書遺言も検討の余地があるでしょう。
また、自筆証書遺言と違い、自筆でなくても作成できる点が秘密証書遺言のメリットと言えます。
公正証書であれば検認の必要はなし
先述の通り、公正証書遺言は、自筆証書遺言や秘密証書遺言と違い検認の必要がありません。
公正証書遺言は、公証人に遺言の内容を書いてもらう遺言書であり、公証役場にも原本が保管されるため、改ざんや変造の恐れがないためです。
【公正証書遺言の特徴】
・保管の安全性が確保されている、改ざんの恐れがない |
・遺言者には公正証書遺言の謄本が交付される |
・何が法定記載事項で、何が付言事項か、形式的な不備はないかなど公証人に相談できる |
・証人2人が必要であること、公証人の費用がかかる |
・証人には欠格事由がある |
・最寄りに公証役場がない場合や、公証役場に出向けない場合、公証人の出張費が掛かる |
遺言書を勝手に開封したときの罰則
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、勝手に開封してはならないことが分かりました。
次に、勝手に開封するとどんなペナルティがあるのか、勝手に開封される危険性を少しでも減らす方法はないのか、解説します。
先述の通り、遺言書は、家庭裁判所ではない場所で開封してはなりません。
家庭裁判所以外の場所で遺言書を開封した場合、5万円以下の過料に処せられる可能性があります。
過料とは行政罰と呼ばれる軽い「おしおき」のような性質で、罰金のような刑罰ではありません。
しかし、裁判所から過料に処すとの通知がきますので、一般の方は非常に驚かれるでしょう。
ご家族も心配するかもしれません。
過料に処せられることのないよう、遺言書が自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合、勝手に開封しないよう注意しましょう。
検認の流れと必要書類
最後に、検認手続きの流れや、必要な書類について見ていきましょう。
検認の申立人と必要書類
検認は、遺言の保管者または遺言を発見した相続人が、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てしなければなりません。
申立人の住まいの最寄りの家庭裁判所ではないので、注意しましょう。
また、申立先は簡易裁判所や地方裁判所ではないので、間違えないようにしてください。
検認申し立てには、申立書の他に次の書類が必要です。
【検認申し立てに必要な書類(共通)】
・遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
・相続人全員の戸籍謄本 |
・遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
相続人が配偶者と子や孫(第1順位の相続人)の場合は、検認申し立てに必要な戸籍謄本等の数はそれほど多くなりません。
しかし、被相続人の子や孫がいないケースでは、検認申し立てに必要な書類は膨大になる可能性があります。
第2順位が法定相続人になるケースと、第3順位が法定相続人になるケースの必要書類を参考に示します。
【参考:検認申し立てに必要な書類】
(第2順位 相続人が遺言者の配偶者と直系尊属(父母・祖父母など)の場合)
・上記の共通書類 |
・遺言者の直系尊属で死亡している方がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
【参考:検認申し立てに必要な書類】
(第3順位 遺言者の(配偶者と)兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)、または相続人が不存在の場合、遺言者の配偶者のみの場合
・上記の共通書類 |
・遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
・遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
・遺言者の兄弟姉妹に死亡している方がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本 |
・代襲者としてのおい、めいに死亡している方がいる場合、そのおい又はめいの死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
戸籍謄本の取り寄せは意外と大変です。
被相続人の転籍が多いケースでは、除籍謄本、改製原戸籍の取り寄せの手間もかかります。
遠方の市区町村と郵送でやりとりする日数も考えなければなりません。
検認を急がなければならない事情があるときは、弁護士や司法書士、行政書士などに依頼することも検討するとよいでしょう。
検認申し立ての費用
検認申し立てに必要な費用は、まず、家庭裁判所に対する費用がかかります。
家庭裁判所に対する費用は、遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円分、連絡用の郵便切手です。
また、家庭裁判所に提出する戸籍謄本等の取り寄せ費用が必要です。
弁護士や司法書士、行政書士など専門家に検認手続き代理を依頼するときは、その報酬がかかります。
家庭裁判所からの通知
相続人への連絡は、家庭裁判所が行います。
家庭裁判所の通知により検認期日(検認を行う日)が知らされます。
ただ、いきなり家庭裁判所から通知を貰うと、他の相続人は驚いたり困惑したりするでしょう。
できるかぎり、遺言書を発見し検認を申し立てる相続人は、他の相続人に検認期日の通知がいくことを知らせておくとよいでしょう。
検認手続当日
家庭裁判所での検認手続きは、検認期日に相続人全員が出席していなくてもおこなわれます。
ただし、検認の申立人は、検認期日に出席しなければならないので、スケジュールを調整しなければなりません。
検認手続きでは、申立人が提出した遺言書を、家庭裁判所が開封することになります。
検認手続の終了後
遺言執行者の指定または弁護士などへの委託がなければ、遺言執行者を選定する必要があります。
また、家庭裁判所の検認済証明書を取得しなければ、自筆証書遺言や秘密証書遺言を執行できません。
検認手続きは遺言執行のスタートに過ぎないので、注意しましょう。
まとめ
遺言書の検認や開封手続き、勝手に開封した場合のペナルティなどを解説してきました。
検認や開封については、遺言書を発見したらすぐに家庭裁判所に問い合わせれば問題はありません。
しかし、一番大切なのは、遺言書の内容をいかに理解し、家族で争いなく遺言を執行するかということです。
遺言書を作成する方も、遺言書をみつけた人が隠蔽したくなるような遺言書を書いてしまうと、遺された家族の争いにつながってしまいます。
遺言書を作成する方は、遺言書の書き方や法定相続分と遺留分の関係などをしっかりと調べたうえで、遺言書を書くことをおすすめします。
遺言書が遺されていた場合、遺言者の最後の意思をしっかりと受け止め、相続人間でしこりを残さないように執行する方法をとりましょう。
遺言書発見のトラブルは、遺言書の内容が大きく関係しています。
正確な知識や情報を集めて、トラブルのない相続手続きをしましょう。
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