目次
この記事からわかること
- ・むちうちで請求できる入通院慰謝料の相場が分かる。
- ・むちうちで請求できる2つの慰謝料と3つの算定基準が分かる。
- ・入通院慰謝料を増額させるための方法が具体的に分かる。
- ・むちうちで慰謝料を適切に請求するために必要なことが分かる。
交通事故に遭って、むちうちと診断され、今後の治療の方法や慰謝料請求の方法について悩まれている方も多いのではないでしょうか。
交通事故で負傷してしまった場合は、入通院が必要になり治療費がかさむ一方で、入通院のために仕事を休まざるを得なくなる可能性も高いです。
また、特に慰謝料についてはどのような理由や計算式に基づいて金額が算出されているのか、疑問を抱く方も多いと思います。
むちうちになった場合には、実は慰謝料には2種類があり、それぞれ増額方法も異なります。
今回は、交通事故が原因で負傷し、むちうちになった場合、慰謝料の相場がどれくらいなのか、適用される基準や後遺症が残った場合も併せて解説していきます。
また、慰謝料を増額させる方法や慰謝料を適正に請求するために必要な事項についても解説しておりますので、是非最後まで読んでみてください。
むちうちで請求できる入通院慰謝料の相場
交通事故でむちうちとなった場合、その症状には個人差があります。
通常、週に2日~3日以上が通院頻度だと言われています。
後述しますが、通院頻度が少ない場合には軽傷であり、通院の必要性がそもそもないものだと保険会社から主張され、治療費の打切りを宣言されることもあります。
むちうちで入通院した場合、その慰謝料の相場はどのように決まるのでしょうか。
入通院慰謝料の相場は次の3つの基準に基づいて決定されます。
- (1) 自賠責基準
- (2) 任意保険基準
- (3) 弁護士基準
この3つの基準についての詳細は後述します。
むちうちの場合は、通院頻度と上記のいずれの基準を適用するかによって慰謝料の額が大きく変わることがあります。
以下の表がそれぞれの基準と治療期間(通院のみ)によって算出される慰謝料の相場です。
下の表ではひと月の通院回数を12回として算出しています。
治療期間 (通院のみ) | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
1か月 | 10.8万円 | 12.6万円 | 19万円 |
2か月 | 21.6万円 | 25.2万円 | 36万円 |
3か月 | 32.4万円 | 37.8万円 | 53万円 |
4か月 | 43.2万円 | 47.8万円 | 67万円 |
5か月 | 54万円 | 56.8万円 | 79万円 |
6か月 | 64.8万円 | 64.2万円 | 89万円 |
むちうちの2つの慰謝料と3つの算定基準
むちうちになった場合に交通事故の加害者に請求できる慰謝料は2種類あります。
それは「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」です。
入通院慰謝料とは
入通院慰謝料は傷害慰謝料ともいいます。
入通院慰謝料とは、交通事故が原因で負傷し、その結果入通院したことに対する精神的損害を補填するために支払われる損害賠償金です。
後遺障害慰謝料とは
後遺障害慰謝料とは、交通事故が原因で負傷し、将来にわたり完治しない後遺障害が残ってしまった場合に、そのことに対する精神的損害を填補するために支払われる損害賠償金です。
むちうちの場合には、治療をしていれば入通院慰謝料を請求できます。
他方、後遺障害認定を受けていなければ、後遺障害慰謝料を受け取ることはできません。
むちうちの慰謝料を算定するための3つの基準
むちうちの慰謝料を請求する場合には、まず慰謝料を算定する必要があります。
上記で説明したように、慰謝料の算定には次に記載するように計算方法が異なる3つの算定基準が存在しています。
- (1) 自賠責基準
- (2) 任意保険基準
- (3) 弁護士基準
(1)自賠責基準とは、自動車の保有者が加入を強制されている保険に基づいて、交通事故被害者に対して最低限の補償を目的にしていますので、最も相場が低くなる基準です。
自賠責保険基準は、交通事故の加害者が任意保険に加入していないケースで適用されます。
(2)任意保険基準とは、保険会社が独自で設定している基準です。
具体的な額は会社によって異なりますが、加害者側の任意保険会社が被害者に慰謝料を提示するときには、自社の基準に基づいて提案してきます。
各保険会社や保険商品によって慰謝料額は変わってきますが、自賠責保険基準では補填しきれない部分を補償します。
任意保険基準で算出される慰謝料の相場は次にみる弁護士基準よりも低く、ケースによっては自賠責保険基準より少し高いか同等程度にとどまることもあります。
(3)弁護士基準とは、弁護士会が過去の裁判例を基に発表している基準です。
この基準は弁護士に依頼したときや、訴訟を提起したときに適用されます。
上記3つの基準の中でもっとも高い基準になりますが、過去の裁判の内容に基づいて決定されているので、正当な金額であると言えるでしょう。
弁護士基準は弁護士に依頼したり訴訟を提起したりすることではじめて適用されるものです。
そのため自ら示談交渉を行う際には、この基準で算定することは難しくなりますので注意が必要です。
治療時期によっても相場は変わってきますが、上記のどの基準によって計算するかでも慰謝料の金額も大きく変わります。
むちうちになった際に相手からの入通院慰謝料を増額させる方法
それでは、むちうちになって入通院した場合に入院慰謝料を増額するために重要となるポイントを解説していきます。
すぐに診断を受け、リハビリをする
むちうちで入通院慰謝料を請求するためには、交通事故の後すぐに病院で受診することが重要です。
交通事故の後すぐに病院を受診しなければ、交通事故と入通院の間に因果関係が認められず、入通院慰謝料の請求が否定される可能性があります。
さらに、後遺障害の認定を受ける場合にも、交通事故との因果関係に疑義が生じてきてしまうため、最悪後遺障害認定が否定される可能性も出てきてしまいます。
治療期間が長い方が慰謝料は大きくなる
入通院慰謝料の賠償額は、治療期間に比例して高額になります。
この関係は自賠責保険、任意保険基準、弁護士基準のいずれでも変わりません。
したがって、入通院慰謝料を増額するには、なるべく長く入通院を継続することが必要です。
しかし、治療の必要もないにもかかわらず通院を続けても、その期間は慰謝料請求の算定の対象とはなりません。
入通院が入院慰謝料の算定の対象になるのは、症状が完治するか症状固定するまでの期間です。
これ以降にいくら病院に通院しても、慰謝料算定の基礎にはなりません。
あくまでも、医師がリハビリの必要がなくなり、完治または症状固定を診断するまでの間は、自己判断で通院をやめたり、治療を中止したりせずに最後まで継続することが,適正な入通院慰謝料を請求するためには大切です。
通院日数・頻度を慰謝料請求と矛盾がないようにする
通院期間が長くても、通院日数や頻度が少ない場合には実際には治療の必要性が小さいものなのではないかという疑問が差しはさまれる可能性があります。
仕事や家庭の関係でなかなか時間を取って通院することが難しいという被害者の方もいることでしょう。
しかし、治療をするという観点からも、適正な損害賠償を請求するという観点からも、しっかりと通院し、治療の必要性がある負傷であることを説明できるようにしておくべきでしょう。
むちうちでの負傷の場合、週に2日~3日以上通院するというのが通常の通院頻度です。
保険会社から治療費を打ち切られても通院を止めない
むちうちでの通院期間が3か月以上になると、加害者側の保険会社から治療費の打切りを打診されることがあります。
保険会社が治療費の打切りを主張してくるのは、その時期で治療も完了しているとみなして慰謝料を減額しようとしているからです。
保険会社の担当者も、業務として誠実に対応してくれる場合がほとんどだと思いますが、保険会社としては慰謝料額は低い方が会社としての負担は小さくなります。
したがって、保険会社には少額で調整しようとする動機があるのです。
保険会社の担当者から、会社の規定やルールを出されて説明された場合には、被害者としては打診に応じるのが通常だと誤解しがちです。
しかし,被害者には怪我が完治するまでの治療費と慰謝料を受け取る権利を有しています。
したがって、正当な入通院慰謝料を請求するためには、任意保険会社が治療費の打ち切りを宣言されても通院をやめてはいけません。
症状固定については、医学の専門家である医師が判断することです。
通院はあくまでも医師が症状固定と判断するまで続けましょう。
弁護士基準で慰謝料を算定
むちうちで入通院慰謝料を増額するためには、弁護士基準を使って慰謝料の金額を計算することがポイントです。
慰謝料の算定基準のうち弁護士基準が最も高い基準です。
後遺障害が残ったら「後遺障害認定」を受けよう
後遺障害認定とはなんでしょうか。
後遺障害認定とは、治療したにも関わらず完治せず後遺障害が残った場合に、後遺障害について等級認定を受け、慰謝料を請求することができる制度です。
症状固定の判断や診断書の作成権限は医師が有しています。
その後、加害者側の自賠責保険会社に必要な書類の提出を求められます。
等級認定がなされるにあたって、治療の継続は必要な条件ですので、自分の判断で通院をやめてしまわず、将来の後遺障害も想定して医師の判断があるまで通院は継続しましょう。
等級認定に基づいてどれくらいの慰謝料が請求できるのか
後遺障害の等級認定は国土交通省が定めている「自動車損害賠償保障法施行令別表」を基準に算定されます。
むちうちは、後遺障害等級「14級9号」と「12級13号」に該当すると判断される場合がほとんどだと言えます。
14級9号は「局部に神経症状を残すもの」で,画像診断などによって医学的に証明できず、他覚症状がない場合でも、被害者の自覚症状の内容が医学的に推定できるケースがあたります。
12級13号は「局部に頑固な神経症状を残すもの」で、画像診断や神経学的検査によって医学的に神経症状が発生しており、他覚症状があることが証明できるケースがあたります。
それぞれの等級に認定された場合の慰謝料の相場を紹介します。
これはあくまで目安ですので、実際は事故の状況や加害者の対応によって賠償額は変動します。
14級9号に基づく後遺障害慰謝料の相場
14級9号 局部に神経症状を残すもので自覚症状を推定できる資料があれば認定可能です。
- (1) 自賠責保険基準での慰謝料相場:32万円
- (2) 任意保険基準での慰謝料相場:40万円
- (3) 弁護士基準での慰謝料相場:90~110万円
12級13号に基づく後遺障害慰謝料の相場
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すものでレントゲンやMRIなどの他覚症状が認められる場合に認定可能です。
- (1) 自賠責保険基準での慰謝料相場:94万円
- (2) 任意保険基準での慰謝料相場:100万円
- (3) 弁護士基準での慰謝料相場:250~290万円
むちうちで請求できる慰謝料以外の損害賠償
むちうちで請求できるのは、慰謝料だけではありません。
どのような損害賠償請求ができるのかを説明していきます。
慰謝料以外に請求できる損害賠償については、以下に例示するものがあります。
- (1) 治療関係費
- (2) 休業損害
- (3) 逸失利益
まず(1)治療関係費とは入院費や診療費といった治療に直接関係があるものの他にも、病院までの公共交通機関やタクシーを利用した場合の交通費なども含みます。
交通事故の発生によって生じた費用は、治療関係費として認められる可能性が高いですので、少額であっても領収証やレシートを残しておきましょう。
(2)休業損害とは交通事故によって仕事を休まざるを得なくなった場合、本来であれば働いて得られたはずの収入分の損害です。
(3)後遺障害が原因で収入が減った場合には逸失利益を請求できます。
逸失利益とは、後遺障害の影響によって,交通事故以前と同じように働くことができず収入が減った場合に、慰謝料とは別に請求できる損害賠償請求です。
仕事をしている人に限らず、学生や無職である場合にも適用されます。
むちうちの慰謝料を正確に請求するために必要なことは?
むちうちの示談交渉においては、慰謝料の算定基準や請求できる相場が決まっているからといってもその基準通りの金額を受け取れるとは限りません。
なぜなら、入院慰謝料の金額によって受け取れる示談金が大きく変わってしまうことに加えて、むちうちは後遺障害認定が難しいという理由があるからです。
納得のいく慰謝料を請求するためには、しっかりと治療を受けて証明することが大切になります。
ここではむちうちの治療の流れと注意点について解説していきます。
むちうちの症状・通院頻度
まず、むちうちとは医学的には「頸椎捻挫(けいついねんざ)」といわれます。
交通事故等が原因で、首に大きな衝撃が加わることで負傷する怪我を一般的に「むちうち」と呼んでいます。
むちうちは、交通事故直後には症状が出ないことがあります。
交通事故から一定程度時間が経過してから痛みを感じたり、首のみならず肩・背中・腕まで痛みを生じたりする可能性もあります。
症状としては、頭痛やめまい、吐き気や耳鳴り、手や足のしびれが出る場合もあり、症状には個人差があることも大きな特徴です。
治療・リハビリをしないと、日常生活を送るのに支障が生じてきます。
通院の頻度としては週に2日~3日以上が目安と言われています。
通院回数が少なすぎると、保険会社からは軽傷であるため治療の必要がないと主張され、治療を打ち切るように要請される場合もあるので要注意です。
保険会社からそのような要請があっても、治療を中断してはいけません。
治療の流れ
むちうちの治療は、交通事故の直後に病院で診察を受け、身体検査・MRI撮影・レントゲン撮影等必要性に応じて詳細に検査することが重要です。
先ほども説明したように、むちうちは交通事故の直後には気が付かないケースもあります。
自覚症状がなくても医師に交通事故に遭った旨を申告して、診察してもらう必要があります。
診断書を作成してもらった後は、症状によっては入院若しくは通院による治療を受けます。
症状が比較的軽傷であれば、病院での診察後に整骨院・接骨院等で施術を受けることもできます。
いずれにしても、自分で判断するのではなく、プロである医師の診察と助言を得るようにしましょう。
通院期間について
むちうちが完治もしくは症状固定となるまでには、通常3か月程度かかると言われています。
仕事や家庭の事情で忙しい場合であっても、後遺症を残さないようにするためには治療を継続することが何よりも重要です。
適切に治療を継続していなければ、入院慰謝料や逸失利益の請求または後遺障害認定の申請などの局面で不利にはたらく可能性があります。
示談交渉を開始するにあたっても、完治又は症状固定となってから進めるのが最適ですので、まずは適切な治療を継続することに集中しましょう。
後遺障害認定についても、完治せずに後遺症が残った場合に、後遺障害申請し認定を受けることで後遺障害慰謝料を受領するという制度になります。
したがって、通常手続は症状固定してから動き始めます。
また、逸失利益の判断も、後遺症が残ってしまったときに得ることのできなくなった収入を考えなければなりません。
したがって、症状固定以降に判断するのが一般的です。
整骨院と整形外科のどちらに通院するべきか
むちうちの治療は整骨院や整形外科いずれでもできますが、どちらに通院するのがよいのでしょうか。
結論からいうと、むちうちの治療は、整形外科に通う方がよいでしょう。
なぜなら、後遺障害認定に必要となる診断書の作成権限は医師が有しているからです。
一方整骨院は、柔道整復師がマッサージ等の施術を行う施術所であり、柔道整復師には診断書を作成する権限がありません。
加えて、整形外科ではレントゲン撮影やMRI等の画像診断によって詳しく体の状態を検査できるため、より症状を的確に把握することが可能になるでしょう。
整形外科と整骨院を併用して通院した場合には、加害者側の保険会社がその整骨院での治療については、必要性がなかったとして保険金の支払いを拒否してくる可能性もあります。
もとより整骨院と整形外科の通院を併用することは可能ですが、まずは整形外科の医師の指示に従って判断することが大切です。
まとめ
以上いかがだったでしょうか。
今回の解説で重要なポイントをまとめておこうと思います。
まず,むちうちで請求できる入通院慰謝料の相場は3つの基準をもとに算出されます。
その算定基準については,(1)自賠責保険基準,(2)任意保険基準,(3)弁護士基準があります。
弁護士基準は慰謝料額が最も高くなる基準です。
むちうちで請求できる慰謝料には「入通院慰謝料(障害慰謝料)」と「後遺障害慰謝料」の2つがあります。
そのうち入通院慰謝料を増額させるには(1)すぐに診察を受けリハビリをすること、(2)治療期間が長いほど慰謝料額は大きくなること、(3)通院頻度は週2日~3日以上であること、(4)保険会社から治療費の打切りを宣言されても通院を辞めないこと、(5)弁護士基準で算出することを解説しました。
後遺障害慰謝料については、後遺障害等級が14級9号と12級13号に認定された場合の慰謝料相場についても解説しました。
以上みてきたように,示談交渉や後遺障害認定の手続には専門的な知識が必要になります。
1人で悩まずに、困った時にはなるべく弁護士に相談するようにしましょう。
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