目次
この記事でわかること
- ・小規模宅地等の特例を利用するための要件について理解できる
- ・「同居」とはどのような状態を指すのかがわかる
- ・「同居」と認められないケースがわかる
- ・小規模宅地等の特例が適用される人の条件がわかる
被相続人が亡くなった場合、相続税がどれくらいかかるのかは、気になるところではないでしょうか。
相続が開始された場合、相続税は相続財産の評価額に相続税率をかけて計算されます。
ですから相続財産の中でも高額となる土地を相続した場合、土地の評価額によって相続税の金額は、かなり変わってきます。
相続税額に大きな影響を与える土地評価額ですが、その土地の評価額を最大80%減額できる小規模宅地等の特例という制度があります。
このような特例ができた背景には、故人が住んでいた土地に相続人となる人が同居していた場合、その土地に満額の相続税をかけてしまうと、同居していた相続人が相続税を払うために、その土地を失ってしまうということがありました。
このような状況を招かない為にできたのがこの特例ですが、本来の目的に合致するように、様々な要件が設定されています。
本記事では、小規模宅地等の特例における要件のひとつ「同居」について、具体例を交えながら説明していきたいと思います。
小規模宅地等の特例の要件のひとつ「同居」
小規模宅地等の特例は、小規模な宅地等を相続した場合、一定の要件を満たすことを条件に、宅地の評価額が最大で80%減額されるという、とても減額割合が大きい特例です。
この特例を利用するためには、以下大きく分けて3種類の土地に該当しなければなりません。
- ・被相続人(亡くなった方)が住んでいた土地で「特定居住用宅地等」
- ・事業で使っていた土地で「特定事業用宅地等」「特定同族会社事業用宅地等」
- ・貸していた土地で「貸付事業用宅地等」
この中でも、「特定居住用宅地」で特例を利用するための条件に「被相続人と同居していた親族が土地を相続したこと」というものがあります。
そこで、この「同居」とはどのようなものを指すのか、判断基準や、具体例を交えて説明していきたいと思います。
「同居」を判断するための基準
「被相続人と同居していた親族」とは、どういった人を指すでしょうか?
法令解釈上は、「同居親族」とは、「亡くなる直前に亡くなった人と同じ家で共に起居していた人」とされています。
つまり、寝起きを共にして、一緒に日常生活を送っていたということです。
さらに過去の裁決事例等から、亡くなった人と同居していたかどうかの判断項目を紹介します。
- ・その建物への入居目的
- ・その親族の日常生活状況
- ・その建物の構造及び設備
- ・その親族に係る生活の拠点となるべき他の建物保有の有無
このような要件を総合的にとらえながら、同居しているかどうかが判断されます。
これで概要は、ご理解いただけたと思いますが、具体的な事例をあげながら、「このような場合は同居に当てはまるのか?」といった疑問にお答えしていきたいと思います。
住民票が同じでも同居にはならない
住民票が同じ場合、「同居」とみなされるでしょうか?
住民票を実家に移したケース
被相続人であるA子さんは、3年前に夫を亡くし、東京都内でひとり暮らしをしていました。
A子さんの法定相続人は、子であるBさん一人で、Bさんは千葉県で家族と持ち家を購入し生活しています。
Bさんは、A子さんが亡くなる前に東京の実家を相続した場合、どのくらい相続税がかかるのか計算してみたところ、多額の相続税がかかることがわかりました。
そこで、Bさんは、相続税を下げるために小規模宅地等の特例が使えないかと考え、「同居」の条件を満たすために、住民票だけを実家に移しました。
Bさんは、実際はその後も引き続き千葉県で家族と暮らしています。
さて、このようなケースでは、「同居」と認められるでしょうか?
住民票だけで判断されない
同居親族に当たるかどうかは、住民票だけでは判断されませんので、「同居」にはなりません。
住民票が同じ場合でも、税務署は、水道光熱費の状況、勤務先での通勤定期券、郵便物の配達状況、ご近所へのヒアリング等で、生活の本拠(どこで日常生活を送っていたか)が、どこだったかを判断します。
住み込みしていても同居にはならない
実際に相続する宅地(実家等)に住み込んでいた場合は、「同居」になるでしょうか?
介護のために実家に住み込んでいたケース
被相続人であるCさんは、10年前に妻を亡くし、東京都内で一人暮らしをしていました。
相続人であるD子さんは、近隣の埼玉県で定年退職した夫と暮らしていましたが、Cさんが高齢の為、亡くなる半年前に介護のため、Cさんと一緒に暮らして面倒を見ていました。
D子さんは、この半年間は、埼玉の家には帰らず、Cさん宅(実家)に住み込んでおり、Cさんが亡くなった後も、相続税の申告期限(10カ月)までは引き続き、Cさん宅(実家)に住んでいました。
さて、D子さんは半年間、Cさん(被相続人)の実家に住み込んでいたわけですが、「同居」と認められるでしょうか?
生活の本拠はどこか?で判断される
D子さんは、介護のために一時的にCさんと暮らしていただけで、生活の本拠を埼玉の夫と暮らす家から移したとは判断されません。
ですから、Cさん宅(実家)は、生活の本拠ではなかったということで、「同居」にはなりません。
二世帯住宅は適用可だが注意が必要
二世帯住宅の場合、「同居」とみなされて小規模宅地等の特例は適用できるでしょうか?
こちらでは、具体例とともに、二世帯住宅の場合の注意点も説明していきます。
玄関が別の二世帯住宅に住んでいたケース
被相続人であるEさんは、二世帯住宅に長男のFさん夫婦と暮らしていました。
この二世帯住宅は、1階にEさん、2階に長男Fさん夫婦が生活していて、玄関は1階と2階別々となっていました。
さらに1階と2階は建物内部には階段がなく、行き来ができなくなっています。
このような二世帯住宅の場合、「同居」していたとみなされるでしょうか?
玄関が別の完全分離型でもOK
二世帯住宅については、平成25年度税制改正により、建物内部で行き来できない完全分離型のものであっても、「同居親族」とされるようになり、小規模宅地等の特例が利用できるようになりました。
しかし、二世帯住宅であっても、同居親族とならない場合もあります。
二世帯住宅で小規模宅地等の特例を利用する際の注意点をまとめましたので、ご確認ください。
二世帯住宅の注意点
二世帯住宅には以下のようなタイプがあります。
- ・寝室等プライベート空間のみを分けて、後は完全に共有する「完全同居型」
- ・玄関や浴室など一部は共有するが、親世帯と子世帯が生活する空間を分ける「部分共有型」
- ・玄関も分けて、いわば隣り合っているだけの「完全分離型」
「完全同居型」「部分共有型」」については、問題なく「同居」とみなされます。
注意が必要なのは、「完全分離型」の場合です。
従来は、完全分離型については同居と認められていませんでしたが、平成25年度の税制改正で、建物の内部で行き来のできないような「完全分離型」でも、同居として認められるようになりました。
ただし、このような「完全分離型」 の二世帯住宅の場合、登記がどのようにされているかによって、「同居」かどうかが異なりますので、注意する必要があります。
区分所有登記がされている二世帯住宅は、「同居」と認められません。
区分所有登記がされていないものについては、「同居」と認められます。
分譲マンションなどをイメージしてみてください。
1棟の建物を、複数の区分に分けて、それぞれ所有者を分ける登記(区分所有登記)の場合は、「同居」とは認められないということです。
逆に二世帯住宅1棟を、分けずに親と子で共有する登記(共有登記)であれば大丈夫です。
小規模宅地等の特例が適用される人の条件
小規模宅地等の特例は、相続する人が適用の要件を満たしていなければ、適用することができません。
ここでは、どのような人が相続した場合に適用されるのかを、相続する土地の分類ごとに説明します。
相続する土地が被相続人の自宅の場合
まず、相続する土地は、被相続人(亡くなった方)の自宅の場合、対象となる相続人は下記のような方です。
- ・配偶者
- ・同居の親族
- ・被相続人と同居していない親族
配偶者
被相続人の夫、または妻です。
配偶者は、法律上の婚姻関係にある間柄をいいますので、内縁関係の夫・妻の間柄で、事実婚の場合は、認められません。
同居の親族
親族とは、6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族です。
血族とは、血のつながりがある人々を指します。
また、姻族は配偶者の血族のことです。
親等は、親族の遠近関係を表す法律上の単位ですが、ツリー状に家系図を作成した場合、起点から見て、どれくらい離れているかというイメージです。
規定となっている6親等というのは、かなり離れていて、自分から見た場合、「はとこ」まで含まれます。
「はとこ」とは、親同士が「いとこ」の間柄ですので、6親等以内の血族は、一般的に親戚の間柄の人はほぼ含まれるといってもよいでしょう。
3親等以内に含まれる親族は、親、祖父母、曾祖父母、子、孫、ひ孫、兄弟姉妹、叔父叔母、甥姪です。
このような親族で、かつ同居していることが条件となります。
「同居」の条件については、前述の項目をご確認ください。
被相続人と同居していない親族
被相続人と同居していなくても、居住している家屋を所有したことがない等の要件を満たす場合、小規模宅地等の特例が適用できます。
居住している家屋を所有していないとは、言い換えると「持ち家がない」ということで、この要件が特徴的なことから、通称「家なき子特例」と呼ばれることもあります。
家なき子特例の要件には、以下のようなものがあります。
- (1)被相続人(亡くなった方)に配偶者がいないこと
- (2)被相続人と同居している法定相続人がいないこと
- (3)相続した人が、相続税の申告期限(10カ月)までは所有すること
- (4)土地を相続する人は、相続開始前3年間に、自己、自己の配偶者、3親等以内の親族、特別の関係のある法人が所有している家屋に居住したことがないこと
- (5)相続開始時に、居住していた家屋を過去に所有したことがないこと
持ち家に居住したことがないという要件ですので、自分で居住してない投資用のマンションを所有していても、大丈夫です。
この(4)(5)の要件は、元は「相続開始前3年以内に持ち家に居住したことがないこと」という規定でした。
2018年4月1日からの法改正により2つの要件に変更になったものです。
何故、これらの要件が付け加えられたかを簡単に説明します。
家なき子特例は、もともと被相続人と同居していた親族が、転勤等で一時的に別居状態となった場合でも、小規模宅地等の特例が受けられるようにしたものです。
ですが、この制度を利用して、想定しなかった人が適用要件に当てはまるケースが相次ぎました。
そこで、要件を改定・追加して、制度の抜け穴をふさいだわけです。
例えば、相続人Aが、別居して持ち家に住んでいる場合、同居ではなく、家なき子でもない為、小規模宅地等の特例は、適用できません。
ですが、改正前の要件の場合、相続人Aではなく、相続人Aの子供に宅地を相続させた場合、この子供は、持ち家を持っているわけではないので、家なき子として特例が適用できました。
このような、抜け穴をふさぐために、(4)の要件として、相続人自身だけではなく、3親等以内の親族の所有する家に居住することも認めないとしたわけです。
また、元々持ち家を持っていた相続人が、小規模宅地等の特例の「家なき子」に該当するために、相続人の持ち家を、自身の子供に贈与したり、親に買い取ってもらったりして、「持ち家を持っていない」状態を作り上げてしまう問題がありました。
ですが、改正後は、相続開始時に居住していた家屋を所有したことがあれば「家なき子」とは認められません。
小規模宅地等の特例の趣旨は、「自宅を継ぐ相続人には、その生活基盤となる宅地については、評価額を減額して、相続税を下げましょう」というものでしたので、本来の目的に沿ったとも言えます。
まとめ
小規模宅地等の特例は、小規模な宅地等を相続した場合、宅地の評価額が最大で80%減額されるという、とても減額割合が大きい特例です。
ですから、法の本来の趣旨に合うように、様々な要件が定められています。
「同居」している親族というのも、要件の一つです。
単純に、被相続人と日常生活を共にして同居していた方は、要件に当てはまりますが、「同居」状態だったのかどうか、自分には特例を適用する要件は揃っているのか、良く分からない場合もあるかと思います。
そのようなときは、税理士に相談するなどして、適正に小規模宅地等の特例を利用しましょう。