目次
この記事でわかること
- ・「小規模宅地等の特例」について理解できる
- ・特例を利用すると、どのくらい相続税が減額されるかわかる
- ・特例を使うための条件がわかる
- ・特例を使う際の注意点がわかる
大切な身内が亡くなってしまうことは、とても悲しいことです。
しかし、故人が亡くなった後には、様々な準備や手続きに追われることとなります。
その中でも特に骨が折れるのは、「葬儀」と「相続」にまつわる手続きではないでしょうか。
特に相続は、からむ金額も多くなりますので、下手をすると家族関係の悪化にもつながります。
そのような問題に注意しながら、細かい手続き等をこなしていったとしても、遺産額によっては、多額の相続税がかかることもあります。
特に土地の場合、評価額が高額であることが多いため、相続税も高額になってしまい、支払いのために土地を売却せざるを得ないというケースもあります。
そのような場合、土地の相続に関して、相続税の計算の元となる「評価額」を大幅に減額することができる小規模宅地等の特例という制度の利用を考えてみてはいかがでしょうか。
本記事では、この小規模宅地等の特例を利用するための条件や注意点について説明していきたいと思います。
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、小規模な宅地を相続した場合、一定の要件をクリアすると、その宅地の評価額が最大で80%減額されるという、とても減額割合が大きい特例です。
減額されるのは、相続税の計算の元となる財産(土地)の額ですが、この相続評価額が下がると、当然、それを元にして計算する相続税もダウンします。
また、財産金額や相続人等の条件によっては、相続税がゼロになることもあります。
このような減額割合の大きな特例ができた背景には、故人が住んでいた土地について、その土地の評価額に対して満額の相続税をかけてしまうと、その土地を相続する人が住む土地や、事業を営んでいる土地を失ってしまうということがあります。
このような状況に追い込まないために、小規模宅地等の特例という制度ができました。
では、「小規模宅地等」とは、どのくらいの大きさでしょうか?
都心部と地方では、感覚が違うと思いますが、330㎡(100坪相当)の面積となります。
ですから、小規模宅地等の特例とは、簡単に言うと、故人と一緒に住んでいた土地を相続する時、330㎡までは土地の評価額が80%減額されるというものです。
ですが、この特例には様々な要件等もありますので、以降にて説明していきます。
小規模宅地等の特例を使うメリット
小規模宅地等の特例を使うメリットは、なんといっても相続した土地にかかる相続税を劇的に抑えられることです。
相続税の負担が軽くなる特例はいくつかありますが、特に効果が大きいのが、この「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」です。
ちなみに「配偶者の税額軽減」は、故人の死後の配偶者の生活への配慮などから、1億6,000万円まで又は法定相続分(他に相続人がいない場合は全額、子供がいる場合は1/2)までは、相続しても課税されないという制度です。
小規模宅地等の特例は、相続税を劇的に抑えられると言われても、金額が想像しづらいかも知れません。
そこで、下記に具体例を用いて説明してみましょう。
相続税がゼロ?
具体例として、8,000万円の評価額の土地を、1人で相続したという場合で計算します。
この計算は、実際は複雑にさまざまな要素を考慮していかなければなりませんが、簡略化した内容となっていますので、ご了承ください。
実際は、土地以外の相続財産や、相続人の人数も増えることが多いです。
小規模宅地等の特例を使わないパターン
まず、相続した土地8,000万円から、基礎控除として
3,000万円+法定相続人1人×600万円=合計3,600万円
が控除され、残りの4,400万円が課税対象となります。
この4,400万円に対応する相続税率と控除額を計算すると、相続税は680万円となります。
小規模宅地等の特例を使うパターン
小規模宅地等の特例を使うと、8,000万円の土地の評価額が80%減額されます。
つまり、減額された土地は、1,600万円という評価額になります。
この1,600万円から、基礎控除として合計3,600万円控除されるとマイナスになりますので、相続税はゼロという計算になります。
小規模宅地等の特例を使うか、使わないかで相続税が劇的に変わることをご理解いただけたのではないでしょうか。
小規模宅地等の特例は土地だけ
劇的に相続税を軽減できる小規模宅地等の特例ですが、適用されるのは土地のみです。
建物などの場合には、この特例は使えません。
そして、適用される土地にも、特例を使うための条件があります。
こちらの条件については、後程詳しく解説します。
住んでいた土地に特例を使うための条件
小規模宅地等の特例が使える土地は、大きく分けて以下の3種類です。
- ・住んでいた土地(特定居住用宅地等)
- ・事業で使っていた土地(特定事業用宅地等)(特定同族会社事業用宅地等)
- ・貸していた土地(貸付事業用宅地等)
まず、被相続人(亡くなった方)の住んでいた土地に特例を使うための条件から説明していきます。
このような土地は「特定居住用宅地等」と呼ばれます。
小規模宅地等の特例は、土地の330㎡(100坪相当)までに適用されますので、土地が330㎡未満の場合は、すべてに適用となります。
土地が広く500㎡あったとした場合は、この土地の330㎡までについては80%減額され、残り170㎡については通常通りの評価額となり、これらの合計に対して課税されます。
では、住んでいた土地に特例を使うための条件はというと、大きく3つに分けられます。
その際、誰がその土地を相続し取得したかということが問題となります。
下記3つのいずれかの条件に合う場合には、小規模宅地等の特例を利用できます。
1.被相続人の配偶者が土地を相続したこと
被相続人の夫、または妻が該当します。
ですが、内縁関係にあった妻や夫といった婚姻関係のない方は該当しません。
2.被相続人と同居していた親族が土地を相続したこと
被相続人と同じ家に住んでいた親族が該当します。
ですが、同居しているかの判断が難しいケースもあります。
例えば、被相続人が自宅(実家)で一人暮らしだったとします。
相続人は一人息子ですが、遠方で暮らしていました。
ですが、小規模宅地等の特例を使えないかと、生前に住民票だけを実家に移しておいたとします。
この場合、特例は適用となるでしょうか?
こういった場合、小規模宅地等の特例は適用できません。
同居していたかどうかは、住民票ではなく実態で判断されるからです。
住民票だけを移して、実際は同居していない場合は適用されません。
税務署は、同居の実態を調査するために、対象となる方の通勤定期の区間や、郵便物の配達先がどうなっているか、水道光熱費の使用量は妥当かなど、様々な確認を行います。
3.被相続人に配偶者・同居人がおらず、3年以上借家住まいの相続人が土地を相続したこと
通常は、被相続人(亡くなった方)と同居していることが要件となります。
ですが、同居していなくても小規模宅地等の特例が適用できるケースがあります。
配偶者がなく、相続人と同居もしていなかった被相続人の宅地を、被相続人が亡くなる前3年間を超えて、持ち家に住んでいなかった相続人が、この土地を相続した場合です。
持ち家がなく、借家住まいであることから、通称「家なき子特例」ともよばれます。
この「家なき子」となるための要件をまとめておきます。
- (1)被相続人に配偶者がいない
- (2)被相続人と同居している法定相続人がいない
- (3)土地を相続する人が、被相続人が亡くなる前3年間に、自分、自分の配偶者、3親等内の親族、特別の関係のある法人が所有している家に住んでいない
- (4)土地を相続する人が、相続開始の時に、居住している家屋を一度も所有したことがない
事業で使っていた土地に特例を使うための条件
被相続人の個人名義の土地・建物で、事業をしていた場合に適用されます。
このような土地を、「特定事業用宅地等」と呼びます。
個人商店や、個人事務所などを経営されている場合に、よく当てはまります。
事業で使っていた土地の場合、土地の面積400㎡(約120坪)までが80%減額されます。
事業で使っていた土地に特例を使うための条件は大きく2つです。
- (1)相続開始前から、その土地で事業を行っていること
- (2)相続税の申告期限までは少なくとも事業用の土地として使うこと
(相続税の申告期限は10か月後)
上記の相続税の申告期限まで「事業用の土地として使う」という条件ですが、相続した会社を期限までに廃業してしまった場合はもちろん、転業しても小規模宅地等の特例は使えなくなりますので、ご注意ください。
また、同じく事業で使っていた土地で、被相続人の同族会社の事業に使っていた敷地にも、小規模宅地等の特例が適用できます。
このような土地は、「特定同族会社事業用宅地等」と呼ばれます。
簡単に条件をあげると、下記の2つになります。
- (1)被相続人、親族、と特殊関係人が株式又は出資総数の50%超を保有する法人の事業の用に供されていた宅地等であること
- (2)宅地等を取得した親族が相続税の申告期限までその法人の役員であり、その宅地等を申告期限まで保有していること
特例に適用される面積は、特定事業用宅地等と併せて400㎡までが、80%減額となります。
「特定事業宅地等」と「特定同族会社事業用宅地等」をそれぞれ、相続された方はご注意ください。
貸していた土地に特例を使うための条件
被相続人が貸していた土地にも、小規模宅地等の特例が適用されます。
アパートや賃貸一軒家などはもちろん、駐車場や駐輪場も含まれます。
このような土地を、「貸付事業用宅地等」と呼びます。
貸していた土地の場合、土地の面積200㎡(約60坪)までが、50%減額されます。
貸していた土地に特例を使うための条件は下記の2つです。
- (1)相続開始前から土地の貸し付けを行っていること
- (2)相続税の申告期限まで(10カ月間)、貸し付けを行っていること
小規模宅地等の特例を使う際の注意点
ここまで、小規模宅地等の特例が適用される条件や、土地評価額の減額について説明してきました。
ではここで、この特例を使おうとする際の注意点を、ピックアップして2つご紹介したいと思います。
被相続人が老人ホームに入居していた場合
小規模宅地等の特例は、故人が住んでいた土地について、一定の要件をクリアすると、その宅地の評価額が最大で80%減額されるという制度です。
では、故人が亡くなる前に老人ホームに入居していた場合は、特例を受けられるでしょうか?
「故人が住んでいた土地」ではありませんが、故人が亡くなる前に老人ホームに入居していた場合でも、以下の要件を満たせば、小規模宅地等の特例を受けることができます。
要介護認定を受けていること
故人が、要介護認定または要支援認定を受けていることが条件となります。
これらの認定を受けずに老人ホームに入居していた場合は、小規模宅地等の特例を受けることができません。
自宅を賃貸物件としていないこと
故人が老人ホームに入居し、自宅を賃貸物件としていた場合は、小規模宅地等の特例が適用されません。ただし、この自宅賃貸物件に、生計を共にしている親族が引っ越してきて、家賃を取っていない場合は、賃貸物件とみなされませんので、特例を受けることが可能です。
なお、あくまでも「生計を共にしている」ことが条件ですので、「生計を共にしていない」親族が引っ越してきた場合や、土地を事業用に使用したりした場合は、小規模宅地等の特例は適用されません。
届出されている老人ホームであること
入居している老人ホームは、都道府県知事への届出がなされていなければなりません。
届出されていない老人ホームに入居していた場合は、小規模宅地等の特例は適用されません。
なお、届出されている老人ホームは、各都道府県のホームページで確認することができますので、入居前にご確認ください。
故人が生前、相続時精算課税制度で土地を贈与した場合
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親または祖父母から、20歳以上の子や孫に財産を贈与する際に選ぶことができる制度です。
例えば、相続時精算課税制度を利用して土地を贈与した場合、2,500万円までは贈与税が課税されません。
しかし、税金がかからないわけではなく、先延ばしになっているだけで、親や祖父母が亡くなった際には、贈与額が相続財産に加算されて相続税が計算されます。
小規模宅地等の特例を使うためには、土地を相続や遺贈によって取得している必要があります。
相続時精算課税制度を利用して土地を贈与した場合は、相続または遺贈によって土地を取得したわけではなく、贈与によって取得したことになりますので、小規模宅地等の特例は適用されません。
相続時精算課税制度を利用して、土地を贈与する際には、充分に注意しましょう。
まとめ
小規模宅地等の特例とは、小規模な宅地を相続した場合、その宅地の評価額が最大で80%減額されるという、とても減額割合が大きい特例です。
この小規模宅地等の特例を利用するには、各種の要件を満たす必要があります。
おもに該当する宅地が、「住んでいた土地」「事業で使っていた土地」「貸していた土地」の3つのパターンに分かれ、それぞれに条件が設定されています。
被相続人が亡くなって、相続が開始された時点で判断される基準ですので、亡くなってから条件に合うように対応することはできません。
ですから、事前に内容を理解し、どのくらい相続税かかかるのか?小規模宅地等の特例を利用できるのか?を把握しておくようにしましょう。
また、被相続人が老人ホームに入居していた場合や、生前に、相続時精算課税制度で土地を贈与していた場合などで、特例が適用できないこともありますので、ご注意ください。