遺言は故人の最後のメッセージですが、財産を人から人へと承継する手続きとなるため、民法で定められたルールがあります。このルールは「遺言書を作成するとき」にも「遺言書を開封して執行するとき」にも適用されるため、遺言に関わる方がそれぞれ注意しておく必要があります。
今回は、遺言の種類とその手続きについて説明していきます。
・遺言とは
遺言とは、被相続人(亡くなった方)がご家族に対して行なう人生最期の意思表示ともいわれます。遺言に効力を持たせるには民法に則った形式で遺言を作成する必要がありますが、民法の規定を満たしていれば、自分の考え通りに財産を引き継いでもらうことができます。
・遺言の種類
遺言にはいくつかの種類がありますが、大きく「普通方式」と「特別方式」に分けられます。それぞれの遺言によって書き方や保管方法が異なるだけでなく、家庭裁判所による検認の有無や、遺言をするにあたっての費用などが変わります。
ここでは、「普通方式」と「特別方式」のそれぞれについて説明していきます。
〇普通方式
普通方式とは法律による厳格なルールに沿って行なう遺言方法で、生命の危機などの特別な理由がない限り、一般的にはこちらを用いて遺言を作成します。普通方式は作成方法によって「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類に分けられ、それぞれに特徴があります。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、現在国内で最も利用者数の多い一般的な遺言方法です。初めから終わりまですべてを自筆で行なうのが原則で、パソコンやワープロで作成した遺言は無効となってしまいます。作成にあたって公証人への依頼を必要としないため、費用がかからず、遺言書の内容・存在ともに秘密にすることができるのが利点として挙げられますが、一方で紛失や変造の可能性もあり、本人や遺言執行者は保管に十分に気を付けなければなりません。
また、自筆証書遺言はすべて遺言者の手によって作成されるため、遺言者が亡くなった後には家庭裁判所による検認手続きが必要になります。検認の際、遺言書に日付の記入漏れや実印が押されていないなどの不備があると無効と判断されることもあるので、不備のない遺言を作成することが重要となります。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、2人以上の証人の立ち会いのもと、公証役場にて遺言を作成する方法です。遺言書の作成は自筆では行なわず、公証役場に赴き、公証人に遺言内容を口頭で伝えることによってその場で作成してもらいます。手数料などの費用がかかりますが、公証人によって遺言書の存在・内容ともに証明されるため、変造の危険性がなくなるとともに、家庭裁判所による検認手続きが不要となり、万が一、遺言書を紛失した場合にも再発行することができるようになります。
効力のある遺言書を残すという点では最も安全で確実な遺言方法と言えます。
秘密証書遺言とは
秘密証書遺言とは、自筆で作成した遺言書の存在を、2人以上の証人の立ち会いのもと公証役場で証明してもらう方法です。遺言書の作成方法、保管方法は自筆証書遺言と変わりませんが、公証役場への手数料などを用意して公証役場に赴くことで、遺言の存在を証明してもらうことができます。ただし、その遺言内容までは証明してもらえないので、被相続人の死後発見された遺言書には、家庭裁判所による検認が必要になります。
したがって、秘密証書遺言は遺言内容をどうしても見られたくない場合に利用することがおすすめです。
〇特別方式
特別方式とは、ある一定の事情によって普通方式での遺言が不可能な場合に、特別に行なう遺言方法のことをいいます。特別方式は被相続人の遺言時の状況によって「危急時遺言」と「隔絶地遺言」の2種類に分けられ、危急時遺言には「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」、隔絶地遺言には「一般隔絶地遺言」と「船舶隔絶地遺言」の2つがそれぞれ存在します。
危急時遺言とは
「危急時遺言」は、被相続人自身に死期が差し迫っているときに利用する遺言方法ですが、その中でも「一般危急時遺言」は、その原因が病気や事故による怪我である場合に利用します。こちらは3人以上の証人を必要とし、1人が代筆した遺言書を他の2人が確認し、作成後20日以内に家庭裁判所で確認手続きをとります。「難船危急時遺言」は船舶や航空機の事故、遭難などにより死期が差し迫ったときに利用するもので、こちらはその状況を鑑みて証人の必要人数を2人、家庭裁判所への確認手続きも遅滞のないように、と規定されるにとどまっています。
隔絶地遺言とは
「隔絶地遺言」は、被相続人のいる場所が隔絶されている場合に利用する遺言方法で、家庭裁判所での確認手続きが不要で、被相続人は自筆で遺言書を作成します。主に伝染病や服役中であるなどの理由で交通を絶たれているときに利用し、警察官と証人を1人ずつ必要とします。また、「船舶隔絶地遺言」は、遭難はしていないが、船舶に乗っているため陸地から離れているときに利用し、同じく船長(事務員)と証人を1人ずつ必要とします。
特別方式はイレギュラーな遺言方法として利用されますが、被相続人が普通方式での遺言が可能になってから6カ月間経過してしまうと、特別方式での遺言は無効となってしまうので注意する必要があります。
・まとめ
このように遺言には、「普通方式」と呼ばれる自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言といった一般的な遺言方法から、ある特定の状況下にのみ用いられる危急時遺言、隔絶地遺言などの「特別方式」まで数多くの種類が存在します。
遺言書の作成を検討している場合には、法的な不備やミスを防止するため、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家に相談して作成することをおすすめします。