相続には、「単純承認・限定承認・相続放棄」の3つの方法があります。それぞれどんな方法なのか、どの方法を選択すればよいのか、確認してみましょう。
目次
なぜ相続には複数の方法があるの?
なぜ相続には複数の方法があるのでしょうか。相続とは、亡くなった方の権利・義務の一切を引き継ぐ規定です。(民法896条)
この権利・義務には、亡くなった方の持っている不動産や動産は勿論のこと、借金といった負債も引き継ぐことになります。
例えば、亡くなった方の相続財産がマイナスの財産(債務)ばかりで、それでも相続人がその権利や義務を引き継がなければならないとすると、相続した人は、ある日突然沢山の借金を抱えてしまうことになりかねません。
そこで、民法では「マイナスの財産を引き継ぎたくない!」という個人の意思を尊重し、相続人が相続財産を承継するルールを作りました。それが、限定承認と相続放棄なのです。
限定承認って何?
限定承認とは、「相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務…を弁済すべきことを留保して、相続の承認をする」(民法922条)ことをいいます。
被相続人が限定承認をした場合には、被相続人の財産に属する一切の権利義務を引き継ぐものの、負の相続財産(債務)については、相続財産中のプラスの財産の範囲内においてのみ、その債務を支払う義務を負います。限定承認は、相続財産が債務超過であるかが明らかでない時に有効な手段とされています。
相続人が限定承認をしようとするときは、被相続人が死亡して相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内に、財産目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする手続き(申述)をしなければなりません。(民法924条)
また、相続人が数人いる場合には、相続人全員が共同してしなければなりません(民法923条)。これは、相続した人によって、単純承認するか、限定承認するかどうかを認めると、複雑になってしまうためです。
相続放棄って何?
相続放棄とは、被相続人の権利・義務を一切引き継がないことをいいます。
相続放棄は、被相続人の死亡を知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に手続き(申述)して行います(民法938条)。家庭裁判所がこの申述を受理することにより、相続放棄は成立します。
家庭裁判所の受理審判は、申述者が相続人であること、および3ヶ月以内という機関を守っていること、という形式的審査と、申述が真意に基づくものであることを確認するのみで行われ、相続放棄の動機や理由は問われません。
単純承認って何?
単純承認とは、被相続人の権利・義務を無条件かつ無制限に相続人が引続ぐことをいいます。
限定承認や相続放棄する手続きを採ろうと思っていた場合でも、以下の事由が生じた場合には、「相続人は、単純承認をしたものとみなす」(民法921条)ので注意が必要です。
(1) 相続財産の全部又は一部の処分(民法921条1号本文)
相続財産の「処分」とは、相続財産を他人に譲渡することや、相続した債権を取り立てる行為や、そもそも相続財産を壊すといった行為も含まれます。
相続財産を処分した場合には、相続財産を自分のものにしようとする意思の現れだとして、他の人も単純承認したのだと信じるのが当然だと考えて、民法に規定されています。
(2) 熟慮期間の徒過(民法921条2号)
相続人が限定承認または相続放棄をしないまま、熟慮期間(=限定承認又は相続放棄をするための期限。民法915条)を経過した場合には、単純承認したものとみなされます。
(3)背信行為(民法921条3号本文)
相続人が、「限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき」には、単純承認したとみなされます。これらの行為は、相続した債務の債権者に対する裏切り(=背信行為)であり、この場合に相続人を保護する必要性は少ないためです。
まとめ
以上が、限定承認・相続放棄・単純承認の説明です。この3つの中からどれを選ぶかは、亡くなった方の財産や債務がどれくらいあるか、相続人が何人なのか、そして相続する人の意思を考えて判断することが重要になってきます。
しかし、亡くなった方の財産がどれくらいあるのかは一見して分かりづらく、また相続人が複数人いて各地に分散している場合は、意見のすり合わせなども難しくなってきます。
どの方法で相続するか、そしてどうやってその方法の相続を進めていくかに困ったら、弁護士に相談するのも一つの方法です。