一口に「相手を訴える」といっても、大きく分けて2つの方法があります。1つは、刑事事件として訴えること、もう1つは、民事事件として訴えることです。この2つは、目的も手続きもその内容も根本的に違います。
それでは、「刑事事件」と「民事事件」とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
刑事事件とは?
刑事事件とは、国が「犯罪を起こしたと疑われる者」(俗にいう容疑者、法的には被疑者という)に対して犯罪が行われたか否かを捜査し、裁判でその者が罪を犯したのかどうか、犯したとしてその場合どのような刑罰が適切かを判断する事件です。
我が国では、犯罪被害者やその関係者が、犯罪者に対して復讐などの自力救済を禁止しており(例えば、殺人事件の被害者遺族が復讐のために加害者を殺した場合には当然、殺人罪で罰せられます)、国(検察官)がその代わりに刑罰権を行使して、犯罪者を処罰するという仕組みになっているので、刑事事件は国対一般人(法的には「私人」(しじん)という)と言っていいかもしれません。
民事事件とは?
それに対し、民事事件は、私人と私人との間の権利や法律関係に関する事件です。例えば、貸したお金を返してもらうことや、品物を売った代金がまだ支払われていないので代金を支払ってもらうことなどが典型的です。
社会生活を送る中で、トラブルは夫婦間であったり、近所同士であったり、学校や勤務先、スーパー、病院など、人間関係があるところならどこへでも生じます。トラブルが生じた際は、話し合いで解決することが望ましく、何でもかんでもトラブルが生じたら即裁判で決着をつけるようなマネはしないでしょう。民事裁判の根本的な役割は揉め事を解決することなので、裁判所もできるだけ話し合いで解決しようと、和解を勧めます。
しかし、それでも解決できないような場合は、当事者のどちらかが訴訟を提起して裁判へと進めていきます。
刑事事件は「国対私人」という関係だったのに対して、民事事件は「私人対私人」という対等な関係にある者同士が争うことになります。
刑事事件と民事事件のそれぞれの解決方法
トラブルが発生した際、刑事事件と民事事件の解決方法にどのような違いがあるのでしょうか。
刑事事件では、被害者や目撃者などが通報や被害届、告訴などを通して、捜査機関(警察や検察)に捜査するよう申し立てます。捜査を経て、検察官が「裁判所でこの問題を取り扱った方がいい」と判断した場合は、被疑者を起訴して被告人として裁判所に出頭し、判決で出た刑罰を受けることになります。
もっとも、裁判所で取り扱うかどうかは検察官にしか決めることはできません。また、例えば詐欺にあって300万円をだまし取られた場合に、警察がこの事件を捜査していなければ、相手を詐欺罪で告訴するか、被害届を出すことになりますが、それは「だまし取られた300万円を返せ」と請求したことにはならず、取られたお金を返してほしければ、民事訴訟を起こして、別途、損害賠償の請求をする必要があります。
民事事件では、トラブルを話し合いで解決できないようなとき、裁判所に訴えて原告(訴えた方)と被告(訴えられた方)のどちらの言い分が正しいかという判断を求めることになります。途中で和解して裁判所の判断が下されても、なお相手が従わない場合には、国の力で自分の権利を強制的に実現します(強制執行)。
民事事件は私人間の紛争を取り扱っているので、警察などの行政機関は介入しません。もっとも、国を相手に損害賠償を訴え出る国家賠償裁判も広い意味で民事事件の一種と考えれば、当事者として国が関与する場合もあります。
まとめ
このように、刑事事件と民事事件は、その事件の性質から裁判の進め方、解決方法など様々な点で異なります。
それゆえ、例えば交通事故における人身事故などのように、刑事事件と民事事件が同時に絡んでくる事件が発生した時でも基本的には直接の関係はなく、手続きも別個に進められます。刑事事件になったからといって、相手に損害賠償を請求したことにはなりませんし、民事で訴えたからといって、刑事告訴したことにはなりません。
これらの違いを十分理解しておくことで、不測の事態に巻き込まれた場合に、適切な対応をとることが可能です。特に、刑事事件はスピードが命ですから、手続の理解が、きっと身を守ることにつながるでしょう。