労働問題の中でも残業代の計算は最も労働者を悩ませるものの一つです。
残業代の計算は証拠集めや計算などで非常に労力がかかり、証明できなければ会社側に丸め込まれてしまうことが多いからです。せっかくまじめに労働しても、それがなかったことにされてしまうことは避けなくてはいけません。
そこで、今回は残業代の計算方法と実際に残業代を請求する際の方法を見ていきます。
目次
残業代の算出方法
日本では労働者の平均労働時間が非常に長く、年間約2000時間にも上ります。このような状況の中で、残業時間も他国と比べて多くなっています。
ここでは、労働時間の要件や残業代の計算方法を説明します。
労働時間とされるもの
残業代を請求する前に、まずはどのようなものが労働時間に含まれるのかを知らなくてはなりません。
例えば、会社に残っていたとしても、その時間が労働でなければ残業していたということにはなりません。また、残業代を請求する際には、残業していたという事実を立証する責任は労働者側にあるため、確実にこの時間残業していたと言えなくては会社側に言いくるめられてしまいます。
労働に当たるかどうかは個別の事例ごとに細かく決まっています。
例えば、清掃作業にしても、会社の命令があったのか、それとも自主的な行為だったのかで労働時間とするかの判断に違いが出ます。
自分が労働には当てはまらないと思っている作業であっても、法令解釈上は労働に当てはまる場合もあるため、弁護士などの専門家に相談しながら、タイムカードやメールの送信時間などの証拠を基に労働時間を算出することが重要です。
残業代の計算(法定時間内)
残業代の計算は労働基準法に定められている法定時間内の労働であるか否かによって異なります。
一般労働者の場合、労働基準法で定められている労働時間は週40時間とされています。
労働基準法の法定時間内の労働であった場合、1時間当たりの賃金に労働時間をかけて計算します。(月給制の場合は、月給から通勤手当や家族手当等を引いて、1カ月当たりの平均労働時間で割って計算します)
もっとも就業規則で残業代の計算規則について決められている場合も多く、法定時間内の労働であっても割増賃金になることがあります。残業代がいくらになるかを確認する際には、就業規則も確認することが必要です。
残業代の計算(法定時間を超えた場合)
法定時間外の場合、時間外割増率がかけられ、法定時間内よりも時間当たりの給与が高くなります。延長した労働時間の合計によってこの割増率は変わりますが、基本的には1.25倍になります。延長した労働時間の合計が60時間を超える場合には1.50倍になります。
このように法定時間外労働によって賃金の計算が変わりますので、何時間残業していたのかを正確に把握する必要があります。これが非常に難しく、証拠集めなどをしなくてはいけないため時間と労力がかかります。
法定労働時間外労働の計算で注意しなくてはいけないのは法定休日労働時間です。法定休日労働については時間外労働に算入されません。1.35倍で計算されます。
まとめ1
適切な給料をもらうことは労働者にとって生活にかかわる大切なことであると同時に当然の権利です。会社の労務管理が徹底されており、労働基準法などの法令に基づいた労働時間や賃金の設定がすでにされていることが一番ですが、労働者が不当に雇用されている場合には今後のことを考えて弁護士や労働基準監督署に相談することをおすすめします。
残業代に時効ってあるの?
一定期間過ぎてしまうとせっかく請求できる権利を持っていても一定期間行使せずにいると、権利を行使できなくなってしまいます。これを時効と言い、時効期間が過ぎてしまわないように気を付ける必要があります。
残業代にも時効があり、残業代を請求できるようになってから2年間が時効期間とされています。
例外的に、時効期間が過ぎても残業代の請求が認められる場合があります。ひとつは時効期間が過ぎる前に労働裁判を起こすなどして時効が中断した場合です。もうひとつは、使用者が支払い義務を認めた場合で、この場合使用者は時効を主張することはできなくなります。
いずれにしても、労働者が早くから権利を主張していなくては認められなくなってしまいますので、なるべく早く手を打っていくことが大切です。
残業代請求の手順
残業代が適当に支払われなかった時に、実際に残業代を請求する手順を知っておけば安心です。また、残業代請求の方法はいくつかあり、大ごとにならずに労働者と使用者双方が納得して解決できることが一番望ましいといえます。
ここでは、残業代請求の手順について説明します。
直接伝えて交渉する
法的な手続きによらず会社と直接交渉して解決することができるのであれば、コストがかからず非常に有効です。
ただし、会社が交渉に応じたとしても、会社側に有利な条件を提示されてしまい労働者側の意見が反映されないこともありますので、交渉をすれば必ず納得した解決ができるとは限りません。
少しでも交渉を有利にするためにできる限りの証拠を集め、残業代の計算をしておくことがおすすめですが、会社側との対等な交渉という観点からはあまりおすすめできません。
労働基準監督署に対応をお願いする
労働基準監督署にお願いすることも有効な手段です。
労働基準監督署は無料で相談に乗ってくれるほか、残業代の計算など、様々なニーズにこたえてもらうことが可能です。
しかし、労働基準監督署は強制力を持った解決を図ることができません。斡旋などをしてくれることはあっても、実際に賃金を払うよう命令したりすることはできないため、会社と交渉しても改善の見込みがない場合は別の手段を取らなくてはなりません。
弁護士に依頼する
最後に、弁護士に依頼するという手段が考えられます。
直接会社と交渉したり、労働基準監督署に対応をお願いしたりすればコストは安く抑えることができますが、解決できるかどうかは不透明です。
そこで、弁護士に相談すれば訴訟を含めた幅広い選択肢を検討して確実に解決することが可能です。
メリットとして、訴訟を起こすうえで必要な証拠集めを弁護士が行ってくれたり、手続をしてくれたりと補助してくれる幅が広いので時間がなかなかとることができない労働者でも利用することができます。
一方、デメリットとしてコストがかかることがあげられます。このコストはどうしてもかかってしまうものですが、最終的に確実に未払い分を取り戻し、さらに支払いが遅延した分割り増しして取り戻すことができるため、有効な手段となりえます。
まとめ2
労働問題の解決に大切なのは問題解決の確実性です。あらゆる手段を選択肢に入れ、解決していきましょう。
残業代を請求する際の注意点
残業代を請求する際に、本当はもっと多く請求できていたのにしていなかった場合や、不備があり請求できなくなってしまう場合があります。
主に注意しなくてはいけないのは、時間の計算と証拠集めです。
時間の計算の注意点は、一分単位で計算することや、残業代が発生しないみなし労働時間制です。みなし労働時間制とは、どれだけ働いても労働時間をあらかじめ決めている時間とみなすような形態の働き方です。
次に証拠集めについてですが、どれだけ働いたかという証拠は証拠として認められやすいものと認められにくいものがあります。たとえば、私的に送ったメールでは証拠として認められにくかったりします。
残業代の請求の際には、実際にどれだけ請求できるか、そもそも持っている証拠で請求できるのかどうか知っておくことが大切です。
まとめ3
以上が残業代請求の大まかな流れと注意点です。残業代請求には細かな法律的知識とフットワークが要求されます。困った際には一人で抱え込まず専門家に相談するのがよいでしょう。